2013/02/14

おもしろい話


「そろそろブログを更新したいんですけど、なんかおもしろい話、無い?」

と、友人のMさんに聞いてみた。
Mさんは不動産関係の会社を経営する56歳の男性である。

おもしろい話、無い?なんて聞いてみたところで
別にどうしてもおもしろい話を期待していた訳ではなく、
私としてはただそんなちょっと無茶な振りにMさんがどう反応するかが見たかっただけである。
大体、おもしろい話を人に要求するという事自体が失礼な話であって、
しかもおもしろい話をいつもストックしている人間なんてそうそういるもんじゃないし、
それにもしいたところでそんなふうに他人が「これ、おもしろいだろ!」って提供してくれたものを素直にそのままおもしろがれるような、私はそんなかわいい人間じゃ無いんである。

付き合いの長いMさんは私のそういうところをよく知っている。
一回ワハハと大きく笑った。

「この間、おもしろい夢を見たんだよ。」

夢の話かあ。と一瞬思った。
夢の話は、おもしろさを人に伝えにくい。
夢というのは本当にその人個人のものであって、
しかもとても精神的なものなので、肌身の実感として共有しにくいのだ。
余程、その話す本人に対しての興味が無い限り。


「夢の中でさ、俺は蝶チョを捕まえるんだよ。
 ひらひら飛んでるのを、綺麗だな、と思って捕まえるんだ。
 そしたら、手の中で蝶チョが色んな動物にどんどん姿を変えていくんだよな。
 最初は蝶チョだったのが、鳥になって俺のまわりを飛び回ったり、
 猿になって屋根の上に駆け上がっていったり、あと、女の人にも変身してたな。
 俺の手の中で急に女の服がはだけて、おっぱいがぽろっと出ちゃったりしたから、 
 ほらほら、だめだろ、って俺が服を直してやったりしてさ。」


・・・


この夢の話で私が気になった事はただひとつ、
蝶だの猿だのというのは特にどーでもよく、
ぽろっと出た女のおっぱいを、
なぜMさん自身が服を直して隠してやったのかということである。

女のおっぱいがそこにあったとするならば、
愛でるか触るかするのが筋だろう。
ぽろっと出たおっぱいを隠してあげることがあるとするならば、
それは娘のおっぱいか、もしくは他人の目を意識しての道徳的な精神からか。
そうでなければそれが自分のおっぱいである場合かだと思うのだ。

ねえ、なんで女のおっぱいを隠してあげたの?とMさんに聞いてみたら、

「え?だって、やっぱり、それはダメでしょ。ダメなところは、ダメなのよ。」

と、なんというか理屈にならないそんなことを言っていた。

いや、その、なんでそれがMさん的にダメなのかが、
私的にはその夢の話のおもしろいとこなんですけどね。

しかしMさん的には別にそこらへんはどうでもいいことらしく、
その夢は自分の変身願望の現れなのかなあ、なんてそんなことを呟いていた。

もしMさんが言う通りその夢が変身願望の現れであるとするならば、
そのおっぱいはMさんのものということになり、
さらにおもしろい話になっていく気がするのだが。
だけどその日、吉祥寺の和食屋で気持ち良さそうに日本酒を頬張るMさんを見ていたら、
なんだか自分のおもしろさの追求はどーでもいいような、そんな気がしてきてしまった。
人と話している時は、とりあえず相手が楽しそうならそれでいいのだ。

勝手に私の中に想像した白々とした小振りのおっぱいを肴に、
その日は私も少し、日本酒を呑んだ。