「ねえ、おこづかいあげるから、ボクと遊ばない?」
6年前、自宅の近くで35歳前後の男に声をかけられました。
男の身なりが、私のキライな不動産屋タイプだったので、
「ごめんなさい。」とお断りしてそのまま自宅に帰りました。
帰ったあと、なんだか無性に、気になりました。
・・・おこづかいって、いくらだ??
「遊ぶ」っていうのは、おそらく「俺とヤろう」ってことに違いないのですが、
一体、あの男は私にいくらの金額を付ける気だったのだろうか?
考え出したら気になって仕方なくなったので、
たまに出会い系などで女を買うと言ってた友人Mさんに訊いてみる事にしました。
急な誘いにイヤな顔もせず、芝公園の日本料理屋を予約してくれたMさん。
そこにくる前にすでにもう呑んでいたらしく、寒空の下、脱いだコート片手に現れました。
「ねえ、Mさんって、たまに出会い系で女の人と会うって言ってたよね?
女の人とヤる時って、大体いくらくらい払うの?」
Mさんは不動産関係の会社を経営する55歳の既婚者です。
見た目にすごくかっこいいってわけじゃないんですが、
女が心を許すポイントというのを心得ていて、
職業柄自分が話すよりも相手に喋らせることが得意な私でさえも、
気がつくとなんでか知らないけど気分よく自分の事を喋っちゃってたりするんですよ。
悔しいですねえ。私、女好きな男は好きだけど、女の扱いが巧い男って、基本的にキライなんですよ。
そういう意味では、イヤな男です。
「金額?それは勿論、相手のコによって違うよ。」
「へえ?それは相手の女の子のレベルによって変えるってこと?」
「じゃなくてね。僕が使ってる出会い系は女の子が最初から金額を提示してるの。
だから、まあ、多分こんな感じのコでこの金額なら、いいかなってとこを探すわけなんだけど。」
ああ、なるほど・・・。
「ちなみに、一番最近のコは、いくらでしたか?」
「2万円。最近はずっとそのコと会ってるんだよね。勿論、毎回2万円で。」
「・・・意外と安いんですね。大体、そんなもんなんですか?」
「いや、やっぱ自分に自信が有るコは提示してくる金額も高いよ。
5万とか、7万とか。僕はその2万のコが結構気に入っちゃったから、そのコで満足だけど。」
「・・・そのコのどこらへんが、気に入ったんですかね?」
「うん、やっぱさ、いくら買う買われるの関係でも、僕は一緒に楽しんでくれるコがいいんだよね。
そうじゃないと、つまんないから。」
・・・おそらく、Mさんは毎回の2万円にも、もう少し、色をつけて渡しているのではないかと、
私は見ました。多分、実質3万円くらいじゃないかと思います。
まあそんな感じで、こういう女の買う買われるに関しては、当たり前の事ですが当事者同士がお互いの納得する線で値段を決めるわけですよね。
「ちなみにマエダさん、3万円で、お願いできますか?」
「え〜・・・イヤですよ。3万円に困る時がきたら、お願いするかもしれませんけど。」
「あはは。冗談だよ。」
あはは? 冗談でも、3万円なんて、私はイヤですよ。
もちろん、命や生活がかかってたら、いくらでだってやりますけどね。
私は今はこの日本で不自由なく生活しているわけですから、
後進国での日々の生活のための売春とは意味合いがちょっと変わって来ちゃうんですよ。
とはいっても、単純に貞操に対して厳格であるべきとは全く思っていないので、
なんていうんですかね?
女は、少なくとも私は、自分がヤリたい時に、ヤリたい男とだけ、ヤリたいんですよ。
それ以外の時に、なんらかの事情でヤらなきゃいけなくなると、
なんてゆーかプライドが傷つくんですよね。
このプライドっていうのが意外と厄介で、
こいつが傷ついていくと、生きる事に必要な何かが、確実に擦り減っていく気がするんです。
女の人って、意外とこのプライドによって強く生きている気がしなくもありません。
と いうわけで、
では、私のプライドに折り合う金額とは、一体いくらなんだろうか?
と、考えてみました。
大体の場合、この日本という国に生きる女性にとっては、
こんな問い自体、馬鹿げたものだというのも、承知の上です。
「金に換算する」という行為自体に嫌悪感を感じる方も多いはず。
ごめんなさい。いつもバカな事ばっか考えてて・・・
でも・・・
そこを、あえて!!
意外とこの問いは、具体的に金額を自分の中で提示していくと、楽しいんです。
別に、この金額を想像したからって、実際に「売る」ってことじゃないですよ。
それとこれとは全くの別の話なんです。
意外と曖昧な自分の貞操に対する価値観が、自分の価値観と意志によって
客観性のある具体的な数字に置き換えられるという、ちょっとした驚きが味わえるんですよ。
たとえば私の場合、3万円、なんて有り得ないんですよ。
そのくらい、自分で稼げるし。
10万円、も、全然やる気しないですねえ。
自分でなんとかなる金額というのは、意外となんとも思わないもんです。
では50万円、では?
・・・これも、全然やる気がおきません。
80万円・・・
うーん。 しっくり来ませんねえ。
100万、200万、1000万・・・
てゆーか、多分、ここらへんまでくると、
多分金を払う側としての男性陣は「は?ふざけんな!」って感じですよね。
そりゃそうですよ。
だってこれは売る側と買う側の交渉としての金額の提示ではないんですから。
自分の中でのちょっとした遊びみたいなもんです。
あとですね、この金額はあくまで『一回』の金額であって、
愛人契約などの『払えばやりたい放題』の値段では決してありません。
ちなみに、いくら安いのは嫌と言っても、
あまりに自分にとって高額でも、しっくりこないものなんですよ。
たとえば、一億円、とかね。
バカバカしいでしょ?
てゆーか、馬鹿馬鹿しくてあたりまえなんですよ!
もともと自分にとって現実感の無い問いを眼に見える数字という形で現そうってんだから。
何度もいいますが、これは自分の中だけでの、遊びなんです。
自分の中で、しっくりくる金額を探しあてて、
「ああ、私って、◯◯◯円の女なんだなあ。」
・・・って、自分自身で感慨にふけるための、ちっちゃな、されど革命的な遊びなんですよ。
その金額が、世の価値観や、他者の基準でなく、自分自身の意志で決める、というのが、
この遊びの肝ですね。
「自分は◯◯◯円(かなり高額)の女、ですから。」
って感じで、具体的な金額によって自分の自尊心を確認するのも良いかと思います。
そんなことを、
もうすでに話したい事もなくなったMさんの前で
ひとり、大して飲めない日本酒を舐めながら考えていたのですが、
ふいに、Mさんに言葉を投げかけられました。
「◯◯◯円でやらせて、って僕が言ったら、どうする?」
・・・・!!!
正直、かなりびっくりしました。
なぜならその時Mさんが口にした金額は、
わたしが「しっくり」きた金額そのものだったから!!
ちなみに、誤解を産むといけないのでその金額はあえてこの場では明記しませんが、
大体において、こんな金額を一回の関係のために払うなんて、
金の価値観は人によって違えどとても一時的な性欲だけでは提示する気にならない金額だと思います。
もちろん、冗談なんですけどね。
「アハハ!とてもありがたいんですけど、なんでかMさんとはヤる気が起きないんですよね、すみません。」
てゆーか、なんで、わかったんだ?
くそっ やっぱりこういう男は、嫌いだなあ。
こういう男とはやらずに友達でいた方が、楽しいんだよ。