2018/06/14

後悔


「タトゥーをずっと入れたかったんですけど、この間、勢いでいれちゃいました」

と、お客様からのご報告。

ボディアートという仕事柄、お客様とは時折そんな話をします。

まあ、大体は、「タトゥーをいれようかどうか迷っている」話なんですけどね。

「よかったじゃないですか!前から入れたいって言ってましたもんね、おめでとうございます!」

私も、相手が例えばハタチそこそこの若者だったら「いれちゃえよ!」とは言いませんけどね。
相手がどのくらい切羽詰まってるかにもよりますけど(タトゥーに対する欲求は人によっては唐突で緊急なこともある。)まあ、ハタチくらいの若いコで「ずっとなんとなく入れたくて...」みたいなコには「30才になっても入れたかったら入れたらよいと思いますよ、大体30歳になれば自分がどんな仕事につくのかとか、どういう社会的なグループの中で生きていくのかもわかりますから。」って提案します。

「悩んでるが勢いでいれてしまいそう」な人に対しては、「まずは下着で隠れる部分に小さいのいれると可愛いし便利ですよ。水着でも隠せるし。胸とか腰骨のあたりとか。」と言ってみます。

タトゥーに対する欲求って、心理的というよりかは肉体的欲求に近い感じが個人的にはするので、「やっちゃダメ」とか言われても無理な気がするんですよね。お腹すいてるときに「食べちゃだめ」って言われてもお腹はすいたままでしょ。あれと同じです。我慢したところで飢餓感が増すだけ。

まあ、どちらにしても私にとっては他人事ですから、「やめなよ、後悔するよ!」と言う人と同じく、無責任な親切心からの発言ではありますが。

まあ、当たり前ですけど決めるのは自分ですからね。

「娘がスミをいれた!って知ったら、多分母は卒倒すると思うんですけどね。私的には今のところ入れたことで良いことしかなかったので、よかったと思ってます。」

タトゥーいれたなんて超楽しいことなはずなのに、なぜもっと手放しで喜べないのかっつーね... そこらへんが、ちょっと残念ではあるけどね。

「絶対後悔するよ!って言われちゃったんですけどね。友達には。」

「ああ、そういうこと言う人、いますよね。」

「あれって、心配してる風の無責任な正義感ですよね。後悔するかなんて、ホントのこと言えば自分のことだってどうなるかわからないのに、他人が後悔するかなんてわかるはずがないw」

「はは!そうですね。まあ、後悔しても大丈夫ですよ、タトゥーだって身体が死ねば無くなりますから。一生って、永遠じゃないし、後悔できるほど多分、人生って長くない。私は、タトゥー入れたときそう思いましたけどね。「一生残るんだよ?後悔するよ!」とか言われても、「貴方の一生って、どんだけ長いの?」って思いますよ。後悔してるほど人生って長くないし、タトゥーいれて後悔する人は多分タトゥーいれなくても後悔するし、むしろ入れて後悔してる人は、タトゥーをいれたことより自分の「もし○○してなかったらもっと今頃は...」っていう無駄な思考癖に悩んだ方がいいと思うんですよね。まあ、後悔にも色んな種類があるから、これはこの話においての極論かもしれないですけど。


いやべつに、入れればよい!って話ではなくてね。

ホントにいれたい人は悩む暇もなく入れちゃいますから、悩んでる人はまあとりあえずウチでジャグアタトゥーでもどうですか、って話です。


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2017/03/14

沈黙

 
 
今回は全然、美しくない話をします。
 
 
「ウチのサロンに変態の男がきてさ」
 
 
マッサージ師のフジ子ちゃんが言った。
 
以下は素朴系美人マッサージ師(やらしくないやつ)のフジ子ちゃんと私マエダ、友人の恵さんとのある日の会話である。
 
 
「ウチ、デコルテ込みのヘッドマッサージメニューがあってさ、それは、男性客も施術可にしてるのね。で、そのメニューで予約してきた新規のカンノって男がいてね、まあフツーに予約してきて、店に来るじゃん?で、デコルテマッサージだからさ、通常は上半身だけ脱いでもらえればいいわけなんだけど、部屋に通した途端、あれよあれよという間に服脱ぎ出して、あっという間にちっちゃなフンドシ一枚になってさ...」
 
 
「え、なぜフンドシ...?」
 
「...パンツじゃなくてフンドシか...」
 
 
「え?...あ、そうそう、なんかね、すごいちっちゃなフンドシ一枚になってさ......いえ!デコルテだけなので脱がなくていいです...!って言おうとしたんだけど、言い終わらないうちにすでに全部脱いでいた。」
 
「...既に脱いでいた!有無を言わせない脱ぎっぷり。脱ぐの早いのね。」
 
「でさ、店には私ひとりだし、そこで揉めるのも怖いじゃん?だから、まあ白かクロかっつったら明らかにクロの変態男なんだけど、とりあえずフンドシはつけてるし、もうこんな面倒な客さっさと終わらせちゃおうと思ってマッサージ始めたんだけどね。」
 
 
「そういう変態男ってさ、施術中ってティンコ立ってんの?」
 
「途中で半立ちになってた。てゆーか、フンドシがちっちゃ過ぎて微妙に見えちゃったんだけどさ、......その男のティンコが、すごい小さかったんだよね。...マイクロペニスっていうの?親指の先くらいしかなくてさ...」
 
「え、てゆーか、眠ってるティンコってなかなかにマイクロじゃない?あ、起きてる時で親指の先くらいだったの?」
 
「半立ちくらいの時だよ、三センチくらいしかなかった。」
 
「...それはなかなかにミクロね...」
 
「だからさ、...勿論、そういう変態はムカつくし許せないんだけど、マイクロな彼なりにフツーのセックスじゃない部分で性的な部分を満たそうとしているのだろうか...とか、あとで色々考えちゃったよ...」
 
 
「つーかさ、おっきいとか小さいとかよくいうけどさ、アレッて結局なにを基準に言ってんだろうね?長さの平均が14センチとかって何かで見たけど、結局は身体の大きさとの兼ね合いっていうか、小柄な男にはちっちゃめのがついてて然るべきだし、体が大きい男には大きめのがついてるっていうのが、まあ違和感ないっていうかね。体との比率の問題だと思うんだけど。まあ、実用的ってより視覚的な話だけどね、それは。つーか、大きさが実用的でない場合はもうカッコいいとか悪いとかいう問題じゃないからな。身長が大きいと小さいとかよりも実用の目的の幅が狭くて明確なわけだから。」
 
「そのフンドシ男は、背は160センチくらいで小柄ではあったけどね。っていうかさ、そのくらいちっちゃいティンコ、見たことある...?」
 
「そこまでミクロなのは、ないわ。だけど、ちっちゃいっつーか、細いのはある。昔付き合ってた男で、肩も背筋も腰もスッゴい筋肉が付いてるガッチリした体つきの男でさ、しかもイケメンだっただけに、予想外に細かった時はなんか悲しかったけどな。なんか、いかにも男性ホルモン多そうっていうか、そういう男だったからさ…だから、なんつーか私としては、外見とのギャップがないティンコがいいと思うわけですよ......もっと外見が細くてナヨっとしてる男のが、細くてもまあなんとも思わないっていうか......体が小さい人にでっかいのがついてても不恰好で気持ち悪いし、それと同じ理由で大きい体の人にちっちゃなのが付いててもカッコ悪いし、結局顔のパーツのバランスと一緒だよね。視覚的にベストな比率ってゆーのかあると思うんだよ、私も今まで付き合った男の人に限っての話だけど、パッとみて体との比率的に大きいか小さいかはわかるんだけどね。具体的にその比率を数字にしてみたことはないけど、多分できると思うよ。やってみようか。」
 
 
「...ティンコの数値化か...」
 
「ほら、基準が曖昧だからこそ悩んじゃうってのもあるかもしれないじゃん?女性の顔とか外見に対する評価と一緒でさ、個性がどうのとか言って主観的にしか評価できないってのも面倒な場合があるんじゃないの。」
 
 
「なんか男の人って、強迫観念的に大きいとか小さいとか気にするよね。ていうか、大きいとか小さいとかいう以前に、大きかろうが小さかろうが好きな男以外のティンコは想像するのも嫌だし、気持ち悪いだけなんだけどね。そこらへん、わかってんのかね。」
 
「どうなんだろね、たしかに男の人って、女の私には理解できないほどに、ティンコにプライオリティを置くよね。つーか、問題はティンコの大きさなのだろうか。」
 
「つーか、彼らにはティンコ以外に問題がないとでも思っているのだろうか。」
 
「…まあ、それはお互い様の話だけどな。色んな意味で。」
 
「よくいうけどさ、大きければいいってものでもないけどね。小さすぎるのも気持ちよくないから嫌だけど、大きいことを誇ってる男のほうが、私は嫌いだけど。あれはもうバカバカしくて引くよね。」
 
「だからさ、小さくてもいいってもんでもないじゃん?だから、大きいとか小さいとかの問題じゃなくて、なんでそういうことに変なプライドもってるわけ?......っていう。こちとら総じてそのプライドを傷つけないように気を使い続けてるわけでさ......「別に大きさとか関係ないよ!」っていうのは勿論真実でもあるんだけど、女の思いやりっていうか、気づかいって面も少しはあると思うんだよね。デリケートな男に対してのさ。ホラ、デキた男の人がさ、30半ばも過ぎた私のような女に「綺麗」とか言ってくれるような、そういう思いやりと同じようなもんだと思うわけよ。まあ、だけど、それはそれとして基本的に男のティンコに関してはなにも言わぬ語らぬの姿勢を取らなければならないので、面倒くさいなっていうか......まあ、その昔のティンコ細かった彼は、たまに酔っ払った時とかにいじけて、どうせ俺なんてアソコも小さいしさ...とか言っちゃうような可愛い男だったから、アハハ!そうだねー!とか言い合えて楽しかったけどね。」
 
 
「あ、でね、一応さ、その変態男の情報だけは共有しとこうと思ってね。これが、その変態の予約時のメールアドレスと電話番号。」
 
「あ、その電話番号、今、電話番号の検索サイトで検索してみたら結構検索されてるから常習かもね。」
 
「え、なにそれ。そんな検索数がグラフででるサイトとかあるの!」
 
「それくらいの情報があれば、ネットオークションの取引先とかもわかるよ。ホラ。出品物からして、エロ系のオタクじゃない?あ、ブログも見つけた。コスプレグッズとか車バイク関連のパーツとか、ヤフオクでの落札記録と一致してるから、やっぱりこいつだと思うわ。大阪在住だね。」
 
「...そうか、やっぱりそうやって、女性が一人で施術してるサロンとか巡ってるのかな...。死ねばいいのに。」
 
「もし、こいつが今度はうちに予約してくるようなことがあったらさ、予約の電話段階でちゃんと言っておいてあげるよ。『あなたは前回、某マッサージサロンで陰茎および陰嚢つまりティンコアンドキンタマを露出させた疑いがあるがそれは事実か?執拗に性的サービスを要求することやセクハラ的発言、行為で施術者を侮辱、嫌がらせをするような行為があった場合には抗議や慰謝料、損害賠償の対象であり、法的対応も検討している。事実関係を確認したいが、陰茎および陰嚢、つまりティンコアンドキンタマを露出させたのか?』と、ミニマムティンコを、ビビッてもっとミニマムに縮こまるほどに威圧的にずっと執拗に喋り続けてやるよ。」
 
 
「ティンコで思い出したけど」
 
「...今日はティンコの話ばかりか。」
 
「前にさ、もんのすごく暗がりから「ほら、チンチン」って言われたけど、人が立ってるのかすらわからないくらいの暗がりで何も見えなかったのでとりあえずガラケーで写メろうと思って声がした方によってって、カシャッ!ってしたらすげー勢いで人が逃げていったんだよ。ガラケーだったこともあり、写真は真っ暗で何も写ってなかったけど。」
 
「露出狂か。そんなに見せたいんなら、堂々と写真に撮られなさいよ!...って思うよね。つーか、なんなの?見せたいけど、写真はNGなの?」
 
 
「つーか、あれよね。ある意味ティンコを男のプライドのようなものとしてこだわってるのに、評価されるのは怖いのよね。体との比率的に平均値よりやや短めくらいですね!だけどフツーにセックスするなら気にならないくらいかな!?とかハッキリ言われたら萎えちゃうんだろうね。けなしてるわけじゃないのにね。きっと例え妄想であっても女に対するティンコの優位性を信じたいんだろうね。そうじゃないと、女に立ち向かえないんだろうね。まあだからさ、たとえ好きな男が小さいことでいじけてても、「小さくたっていいじゃない!たとえティンコが小さくたってあなたは素敵。」とか言っても、男は頑張れないんだろうね。なんかよくわかんないけど、やっぱりこういう話は、その変態男みたいのは別として、好きな男に対しては、良かれと思ってもアレコレ言わない方がいいんだろうね。愛情による沈黙っつーか、まあ思うところは色々あるけどさ、ほら、あれだよね。立たせたかったら黙ってろ、みたいな。」
 
 
なんつって、もう書いちゃったけどな。









2017/02/28

死生



この生理的な嫌悪感を与えてくれる無粋なガスマスクを
エロスの一部と感じるか
タナトスの象徴と捉えるかは
きっとその人の死生観によるのだろうね。
ちなみに私はこのマスクにタナトス由来のエロティシズムを感じましたが、
「死」という概念を好む人間は「死」に対してエロティシズムを感じており、
「エロ」を好む人間は「死」に魅せられている、と、
私は常々感じております。


Art by 中里一日
model by Lima
Photo&mehndi by マエダナツコ


2017/02/21

ピースフル


男友達の清人と海際のホテルの部屋にいた。

「ナツコ、あなた以前、男ふたりと三人でセックスしたことあるっていってたでしょ。それってどんな気分なの。」

海際のホテルとは言っても夜遅かったので、窓からは真っ黒な重苦しい夜の海しか見えなかったし、男友達の清人は酒をのんで酔っ払っていた。

酒に酔っ払ってるこの男友達相手に話したことがどれだけこの男の記憶に残るもんなんだろうなあと考えたが、まあ、下戸な私はこういうことが多いんだ。
実はその話も、二度目なんだけどね。


「ああ、3pの話ね。なんかさ、3人ってことに、不思議と興奮はしないんだよね。わたしの場合はね。勿論、たとえば彼氏と私と、第三者としての男がもうひとりという状況だったら、被虐性とか彼に対する背徳感でもっと興奮できたかもしれないんだけど…
私がそのときやった相手はさ、仲のいい男友達ふたりだったからね、なんつーか、別に刺激的とか興奮するとか、そんな感じではなかったんだよ。」


「…俺、それ聞いてるだけで興奮するけど?」

「多分、聞いてるだけだからだよ。実際にやったら、場合によっては興奮してる余裕なんかないかもしれないよ。笑  3pってさ、ただ性器の擦りあいとしてのセックスをするってだけじゃなくて、結局は3人の関係性をどうつくるかが全てだったりするわけだから。
カップルと第三者の3pの場合は大体は嫉妬心を煽るだけだからわかりやすいけど、たとえば見ず知らずの男女が3人集まったらどう関係性をつくるのかって話でしょ。
男女女の場合はさ、大体女ふたりがレズするか、1人の男に女ふたりが奉仕するかのどちらかだけど、見方によっては男1人が女二人を満足させなきゃいけないわけだから、それはそれで結構大変だよね。女ひとりをホテルの部屋のクロゼットの中に縛って閉じ込めて、そこにもうひとり別の女を呼んでセックスしてる声だけをクロゼットの中の女に聞かせて楽しむ阿呆な男も知ってるけど、まあそれはちょっとSM的だよね。
男二人に女ひとりの場合は…やっぱり、男ふたりにやられてるっていう被虐性がいいのかなあ。AVにもたまにあるパターンだよね。正直、私はよくわかんないんだけどね、そういう、レイプにもにた被虐性って。まあそれは、男の妄想なのかもしれないし、見方を変えれば男2人に女が奉仕してもらってるってことかもしれないしね。」


部屋の窓際の椅子の上で、清人は珍しく日本酒を飲んでいた。
酔っ払っている時の、饒舌で人懐こくなる清人も好きだけど、私は普段の少し遠慮気味で距離感のある清人もセクシーだからとても好きだ。


セクシーな男は、女との距離の取り方がとても上手い。
女の、降伏と受容と警戒心の、いつもちょうどいいところに気持ちと身体の距離を取る。
警戒心すらも女にとっては刺激になると知ってか知らずか、器用な男は無意識に女との間合いを図る。
いつもちょうどいいとこにいてくれるから刺激的で、だからこういう男といるとやりたくなるんだよな。


こんないい男といれて、しあわせだなあ。

なんて考えてるとお酒が無くたって酔っぱらえるので、なんて私ってお得な女なんだろうなあ。なんて思ったりもする。


「あ、そういえば。」

「わたし、その男二人と仲良くヤった時にさ、変な話なんだけど。」

「うん」

「…世界平和って、こういうものなんじゃないかって思ったんだよね。笑」

「…え!なんで」

「なんかね。うまくいえないんだけど…漠然と感じただけなんだけどね、女ひとりに男ふたりでさ、それってフツーに考えたらものすごく不均衡がうまれるバランスだと思うわけ。しかもセックスっていう人間の根幹的な欲望が支配する状況で…争いもせず、誰かが主張するわけでもなく、その関係性の輪を保つためにある意味理性をもってことに及ぶその人間が人間たる、欲望を理性で整える姿勢自体がね。なんて、平和なんだろうって思ったよ。世界の人々がみなこんな姿勢で生きてたら、争いなんておこらないだろうにと。笑」

もちろんその時のメンバーの取り合わせが、適度に距離感のある仲の良い友人同士だったということも幸いしたとも言えなくはないわけだけど、なんていうか、逆に恋愛感情や独占欲が無かった分、みんなが冷静に、相手を思いやれた部分もあっただろうね。
ある意味で、愛のない世界っていうのは平和なんだよ。


「…あ!そういえばなんかそんなこと、なにかの本で読んだことあるな。なんの本だったんだろう、忘れたけど、複数人でセックスした時にピースフルな気持ちを感じた、とかなんとかそんな記述だったかな。読んだときは、複数のセックスでピースフルなんてさっぱりわからなかったし、いまでもわからないけど、きっとあなたがそういうんだったら、そういうことなんだろうね。」


へえ、そうなんだ。
てっきりそんなことを感じるのは私だけなのかなとも思ってたけど、結構世の中の人たちも複数人とのセックスで平和に思いを馳せたりしてるんだなあ。
って考えると、アブノーマルって一体なんだよ、って感じもしなくはないけど、まあノーマルと平和って、あたりまえだけど同義語ではないしなあ。


本当に平和な世界に「平和」という言葉が存在しないのと同じように、たとえば「倫理」や「道徳」という概念が存在しない世界というのは、倫理道徳以上に人間の自発的な、平和的な意志が存在し実行されている世界なんだろうなと、意味もなく想像してみる。

そこまで大げさな話ではないけど、私があの時感じたピースフルな気持ちというのは、そんな妄想の、一瞬の一欠片みたいなもんだ。
それは勿論、なにかの真理のようなものではなくて、というよりも真理と錯覚できてしまうような甘美な人間の妄想の一片のようなものなんだと思う。

そんな世界が人間に必要なのかどうかも、わからないしな。

「そういえばさ…いま、思い出したんだけど。たとえばさ、ナツコ、あなたと、あなたの大好きな彼氏と、他の男と3人でヤルとするでしょ。その場合、たとえば片方の男のモノをあなたの下の…体の方に咥えて、もう片方の男と、あなたがキスするとするでしょ。その場合、大好きな彼氏とは、どちらがしたい?彼氏とは、キスをしたい?それとも、他の男とキスしながら、彼氏に下にいれてもらいたい?」


「…それは」

「うん」

「…どう考えても、大好きな彼氏とはキスしてたいねえ。」

「だよね。俺も、そうだもん。好きな人とは、キスしてたいんだよね。」

「うん、だってさ、リアルな話、下の方に入れられてても、五感的には触感だけでしょ。キスはさ、相手の顔も見えるし、匂いもわかるし、味もするし、感じる感覚が多いからね。あとさ、正直いうと、男の人のモノなんて大小の差や硬さの差こそそこそこあれそんなに極端には感触って変わんないわけ。だけど、特に視覚的に見える顔とか目線って、人によってすごく違うでしょ。こういう言い方は下品かもしれないけど、もし目の前で大好きな彼氏が自分を見つめているとしたら、自分のお尻側で腰を動かしてるだけの男なんて高性能なオモチャにも及ばないわけ。なまじオモチャじゃなくて人格がある分、人格としては惨めにすら思えるかもしれないね。男側がどう思ってるかはわかんないけどさ。それに特に私は、男の人を好きになるときに顔の造作とか目付きとかで好きになることが多いから、やっぱり視覚的な刺激っていうのは、大きいってのもあるけどねえ。」

勿論、人によるのだろうけど、
精神的な部分のことでいえば性器なんて結構どーでもいいのかもしれないね。
たまに女の人でも、触られてもいないのに言葉や視覚的な刺激だけで興奮してイケる人もいるみたいだし、そう考えるともはや人間の性器って結果的に使ってるだけって感じもしなくないような。


「だからさ、その、キスの話だけど、もし俺とあなたと、他の誰かと3人でセックスするとするでしょ。そのときには、俺はあなたとキスしてたいの。わかってる?」

「じゃあ、誰かと3人でしようよ。この間 清人、いってたじゃん。そういうの一緒に楽しめそうな人がいるって」

「うん、今週、その人と会う予定があるから、打診はしてみるよ。・・・ただ、その人がOKするかどうかは、わからないけれど。」

「うん、それはもちろん、乗り気じゃないならやらなくてもいいだけの話じゃない。別に、やらなきゃいけないことでもないわけだし。」

そう、そういうことは、

べつにやる必要がなければやらなくてもいいことなんだ。
たとえばそんなアブノーマルな遊びが刺激になるのは、単に自分の、ノーマルの部分に深く捕らわれている人たちに限ってのことなのだと思う。
刺激は刹那的なものでしかないし、モラルの壁を超えたところでなにも超越しないし、なにか重要なものを手に入れるわけでもない。


必要がない人にとっては、本当に必要のないことなんだ。


清人は酔いも極まって、窓際の椅子の上からそのままベッドへと転がり込んだ。
少し私の身体に絡んできたので甘えてきたのかと思ったが、清人はそのまま静かに寝息をたてながら、眠ってしまったみたいだった。

風がないせいか波の音はほとんど聞こえなかったけど、あいかわらず窓の外には夜の、黒い海が見えた。
夜の海は重々しくて得体が知れなくて、足を踏み入れようものならそのまま引きずり込まれてしまうような怖さがあるけれど、私はそういう不気味さも、嫌いじゃない。

この男にも、あとほんの少しだけそういう部分が加わったら、もっと私好みの男になるんだけどなとも思ったけど、だけどそんなものを、この男は本当には必要としていないんだろうな。
なんてことを考えながら、私も同じ寝床の隅っこに陣取って、眠ることにした。







2017/02/14

初恋




恋した男に振られてしまった。


サロメはそのとき14歳。

「望みをかなえてくれるというなら、その男の首がほしい。」

裸身の踊りと引き換えに、ユダヤの王である義父から受け取った。
その男の、首。

もう、意思も鼓動もない
ただのモノにすぎない、男の首。
だけど 生きたあの男に認められることと、
男の生き死にを支配することは、

実はそんなに違いはないのよ。
どちらもわたしの、
一部になってほしいということ。


あなたは、
そんなの愛じゃないって言うかもしれないけど
たしかにそれは、あなたが示すような尊い愛とは
違うものなのかもしれないけど、


だけど 恋っていうのはね、
相手を大切にするってことじゃなくて
あなたの幸せを願うってものでもなくて
ただ、自分を愛するための感情なの。
だから私は美しいあなたを所有して、自分の思うようにしたいと欲するし
わたしのためだけにあなたがいると、たとえ錯覚であっても感じていたい。

欲望が満たされたときに自分は自分を認めるし、
獲得したという体感は、根深く自尊心を支えてる。


それはとても自然な肉体の欲望。


もちろんだれでもよかったわけじゃない、
それがあなたであったから、
それは恋になりえたのよ。

自分ひとりの殻を破り肥大する自我。

自分以外の人間を経て得る、初めての自己肯定の恍惚。



自己愛の純粋。

photo by maeda natsuko

2017/02/07

身勝手


友人、碧ちゃんができた子供を堕胎したと言った。

まあ、そういう話は陽気に話す話でもないけれど、
じめっと暗く話しても仕方ないしな。

というわけで、その日その場に居合わせた私と碧ちゃんと
もうひとりの友人、舞子さんの3人でまあ、フツーにおでんを食べながら
そんな話をした。

「今年に入ったくらいから、急にこどもが欲しくなってさ、子づくりに励んだわけなんだよね。
とはいってもホラ、私の彼って結婚してるから、
彼は子づくりには消極的だったわけでなかなか妊娠しなくてさ。
だけどその間に私、別に好きな男ができて、その別の男とも付き合い出したんだよね。
で、まあ、私は二股かけてるし、それがもともと付き合ってた彼氏にもばれてモメ始めて、
結局そのもとの彼とは別れるかどうかってとこまでいったんだけど。」

・・・

「私、もし誰かの子供を産むとするなら、絶対その、もとの彼氏の子供がよかったんだよね。
男として、彼氏としてどっちが好きかって言ったら断然、新しい方の彼氏の方がすきだったんだけど、
自分の子供の父親、って考えたら絶対にその、もとの彼氏がよかったの。」


「・・・で、どうしたの。」


だいたい、わかるけどな。


「新しい彼氏には何も言わないで、
その新しい彼氏への嫉妬に狂うもとの彼氏に馬乗りになって子づくりした。」

・・・そ、そうか。

まあ、父親にするならこの男、恋してセックスするならこの男、って感じで、
目的に応じて求める男が変わるっていうのはなんとなくわかる。
ちなみに、ここでいう「父親にするならこの男」というのは俗にいう「結婚したい男」とはまた別である。
碧ちゃんは私と同じ34歳だが、全くと言っていいほど結婚願望が無い。
手堅い仕事も持ち経済的にも精神的にも自立しているので、
周りの女友達が結婚して子供産んでるから、そろそろ私も、というような
いわゆる自分の歳に焦っている、という状態とも無縁である。

だから碧ちゃんはきっと、自分と掛け合わせる遺伝子に恋をして
その父親候補の彼氏に出会ったのだと思う。
そして、自分が生きる糧としての恋を求めて、恋愛対象としての彼にひかれたのだと思う。

碧ちゃんは、一点の妥協も無く、その両方が欲しかったのだ。
もしかしたらそれくらい、そのふたりの男は碧ちゃんにとっての理想の恋人と、
自分の子供の父親だったのかもしれない。



「でさ、できたわけでしょ。なんでそれを、堕ろしたの。」


「うん、妊娠がわかって、2週間くらいした時にさ、
新しい彼の方にも言っとかなきゃ、って思ったんだよね。
で、メールしたんだよね。
『妊娠しましたがあなたの子供じゃありません。』って。」


・・・そりゃまた唐突な。


「私としてはさ、そこで別れ話がでるのも覚悟はしてたんだよね。
だって、他の男との子供がお腹にいて、
それでも今までと同じような付き合いが続くとは普通思えないじゃない。」


ま、まあふつうはそうだけどな。
だけどここまでの話があんまりフツーじゃないんで
もうフツーとかそういう問題でも無いっていうか。


「でね、その妊娠しましたってメールの後に新しい方の彼と会ったんだけど。
彼はさ、あたりまえだけど私のメールにびっくりして色々思いめぐらせたみたいで憔悴してて、
仕事を抜けて会いにきてくれたんだけど、初めは、私の顔見ても何にも言わなかったんだよね。
子供の父親についても聞かなかったし、これからどうしたいのともきかなかったし。
でさ、しばらくした時に、泣きそうな顔で、言ったんだよね。
実際顔は泣いてはいなかったんだけど、顔以外の身体の全部が、泣いてるような感じでさ。
『とりあえずは、今のままでいよう。』って。
『あなたは、あなたの生きたいようにしか、生きられない人だから』って。」

・・・

「わたし、それ聞いた時にさ、今までもその彼のことはものすごく好きだったんだけど、
その何倍も、好きだって思ってさ、この好きだって気持ちのままで、
その彼ともう一度セックスしたいって思ったんだよね。
おなかの子供抜きで、
どうしてもふたりだけでセックスしたいって思ったの。」


初めは、碧ちゃんがこの話を始めたとき、彼女は懺悔をしたいのかと思っていた。
私たちに話す事で、自分自身か、そのほかの存在に赦しを請いたいのかと思っていた。
だけど、碧ちゃんは万にひとつも後悔の念は無いという。
なぜならそこで、碧ちゃんは、自分の人生に必要なものを自ら選びとったから、と。


「そのセックスは、気持ちよかった?」


「うん、今まで生きてきた中で、一番気持ちよかったよ。
今は、その新しい彼と仲良くやってる。
勿論、中絶したときは哀しいっていうかすごく寂しかったけど、
私は何も後悔してないから辛くはないし、
むしろこの先、堕ろしたことを後悔するような人生を歩んだら、
それこそ私の人生が失敗なんだって思った。」


ずっと黙って黙々と酒を飲んでた舞子さんが言った。

「子供を堕ろしたことで、なにも引け目を感じたりすることはないよ。
 女が、大昔から、どの時代にも繰り返しやってきてることなんだから。」

だけどまあ、そういうことはおおっぴらには言えないよね。
本人がちゃんと人生を歩んでいる中でのことだから、
勿論、親しい人たちは基本的には理解してくれるだろうけど
「堕胎はいいのか、悪いのか」という普通に生きてたら考えなくてもいいような
重い問いを突きつけられることになるからね。
できることなら、わざわざそんなことを親しい人に考えさせたくもないので
必要がない限りは、言わなくてもいいのではないかと、私は思う。
だけど、言えないからといって引け目を感じる事も無い。
それくらいのもんだと思う。
勿論、例えばレイプされた女性にできた子供の堕胎は致し方ないか否か。
というようなある意味究極の問いでなかったとしても。

でもまあ、
曲がりなりにも、ひとり殺してるわけだしな。
まだ腹の外の世界を知らない存在とはいえ、
自分の腹の中のひとつの命を自分の都合で処置したとなればなんというか、
人間性というよりももっと、
女の母性本能的な部分を否定されそうな感じもするもんな。
なんつーか、世間的にはね。


「いや、私は高校生と中学生の子供がもうふたりもいるけれど、
女の母性本能だって、所詮は感情なんだって思うよ。
かわいいときは勿論、すごくかわいい。だけど、憎いときは憎い。
母性本能って、女なら誰でも持ってるこの世で一番尊い本能のように言われたりもするけど、
結局はそれだって湧いたり消えたりする感情と一緒なんだよ。」


舞子さんは話しながらも酒を飲む。


「結局、子供を堕ろしたのをきっかけに前の彼とは別れたんだけどさ、結局私は、
子供とか、子供の父親とか、そういうものよりもセックスの相手としての、
恋愛対象としての男が必要なんだって思ったんだよね。
そういう相手といる時の、甘い香水をぶちまけたみたいに幸せな時間とか
泥に埋まってくような辛くて苦しい時間とか、
セックスの快感とか、嫉妬とか、自己愛とか、独占欲とか、
普段では考えられないくらいの相手に対する謙虚な気持ちとか、
それこそ別れた時の死ぬほど悲しい気持ちとかまで、恋愛に関する全てのものが、
そういうのが、私にとっては一番、大切なんだよね。
だけどさ、結局はそういう自分の欲求のために、ひとり死なせたわけでしょ。
たまにさ、男に死ぬほどのめり込んでいく女とか、子供を殺める母親の昔話とか、
そういう女の身勝手さを、女の情念とかどろどろしつつも美しく語るような物語ってあるじゃない。」

ああ、阿部貞とかね。
アレは子供を殺しては無いけど、
自分本位な女の本性を題材として作品にもなってるしね。


「そう、女の本性なんてさ、全然恐ろしくも美しくもなくて、
 単に徹底的に自分本位だし身勝手なんだよ。
 まあ、少なくとも私は、だけど。」


そうかもしれない。
そして誤解を恐れずにいうならば、それは女の強さでもあるかもしれないね。


「私の友達のひとりでさ、今、熱心に子づくりしてるコがいるんだよね。
だけど、なかなかできなくて、排卵日チェッカーかなんかで排卵日を測定して、
その前後に狙い撃ちで旦那さんとセックスしてるらしいんだけど。
とにかく子づくりに熱心なのはその奥さんの方だけでさ、
旦那さんは、別にそんなに焦らなくても、自然にできればいいじゃんって感じなんだよね。
だけど奥さんがとにかく子供を欲しがるから、
そんな子づくりをもう半年以上つづけてるらしんだけど、
最近ではもうそういう子づくりのためだけにやるセックスに旦那さんの方が嫌気が差してきたみたいで、
旦那さんがその子づくりセックスを拒否するようになってきたらしいんだよね。」


・・・たしかに、それはそうだろう。
男でなくても旦那さんの気持ちはわかるわ。

だけど、子づくりに執着する女は私の友人にもいるけれど、
あれって一度始めると子供を作るということ自体が
世間体とか自分の存在価値の確認みたいなことと関わってきちゃってなんか
変なスパイラルにハマって大変そうな感じもするのよね。



「うん、だからさ、欲しいも、欲しく無いも結局は女の身勝手なんだよ。」
 

「産むも、産まないも女のエゴ。」


舞子さんはそう言ってまた、酒をのんだ。


そんな女の身勝手を、

それを醜さとするか強さとするか
それは私にはわからない。


だけど、それは正しくも無いし間違ってもいない。


命を抱えることができる女の体は、
そんな薄っぺらな二元論ではできてはいない。

善いも悪いも好きも嫌いも
恨みも快楽も
悲しみもやさしさも
決して割り切ることをしない
全ての矛盾を抱き切る身体を

持て余しもせず、
味わい尽くす女もいるというだけの話である。






2017/01/31


「写真写り、すごく悪いんですよ。」

と、ヌードメヘンディの撮影の帰り道、モデルさんが言ったので

「いや、それは私もです、写真写り、超悪いです。」

と、私も答えた。


だってほら、私たちは

いつも鏡に映るもうひとりの自分を知っている。

そのもうひとりのわたしは、
自分のどこが綺麗かを
自分のどこが、ほかの女たちより少しだけ優れているかを
きっと世界中のだれよりもよく知っている。

たとえ男の人が、
「そんなちょっと背が低いとか太ってるとか気にしなくてもいいのに。
あなたはそのままで充分綺麗だよ。」
って言ってくれたとしても

それとこれとは無関係なの。

わたしは知ってるから。
自分の美しいところも、美しく無いところも。

私は私の眼で、
私を見つめることはできない。

この左右反対の世界が、
私がこの眼で見ることのできる、

唯一で真実のわたし。











photo by  maedanatsuko