2016/11/28

サガ



手枷&首枷 by Bondage 208

「マエダさんはブログの感じと、実際お会いした時の印象が結構違いますよね!」

と、たまにお客様に言われたりするのですが、


・・・ああ、だって、あれでしょ・・・?


私のブログの感じって、SMとかヌードとか拘束具とかおっぱいとか、
そんなかんじですよね?
そりゃ違うに決まってるじゃないですか。
人間の本質がそれだというならともかく、
第一印象がSMとか拘束具とかおっぱいとかだったらちょっとやばいと思うんですよ・・・。
まあ、別にそれでもなんでもいいんですけど。

最近、ヌードメヘンディの写真を撮りためているのは、
208の新しいHPを作りたいがためでもありまして、
そのためではないですが、少し前、ネットで検索してみたんです。
「メヘンディ・おっぱい」という単語を。

その検索結果がなかなかにおもしろかったので、
思わず友人のメヘンディ描き、名古屋のスズケーさんに一報入れてしまいました。


「ていうかスズケーさん!『メヘンディ・おっぱい』で検索かけたら、スズケーさんのツイッターが一番に出てくるんですけど・・・・!」


っていうか、いいの・・・?!
日本におけるメヘンディの権威であるスズケーさんともあろうお方が、
「おっぱいメヘンディ」なんていうキュートかつ阿呆っぽい言葉で検索トップに引っかかってくるという事実・・・!


「・・・ていうか、トップだけじゃなくて2位まで私じゃないの・・・」

え・・・?
あれホントだ・・・笑

ていうか、この1位の検索結果の、「おっぱいをチラ見するゲーム」ってなによ・・・?
2位は成人式の花魁着付け女子に対するお気持ちを綴ったツイートでしたね。

大体、彼女はあの繊細で可憐なメヘンディを描くアーティスト業と、またあの理知的な文章を紡ぐコピーライターという職業の傍らで、いつも不用意にパイとかウンコとかオチッコとか、
小学生並みに低レベルな言葉をインターネット(主に個人アカウントのツイッター)という公共の場で呟きすぎなんですよ。

「・・・そういえば前に、お客さんに『スズケーさんってウンコ好きですよね』って言われた・・・。
・・・ナッツンなんて『メヘンディのキレイなおねーさん』って言われてたのに・・・。」

ま、まあ、スズケーさんの場合はそういう知的で可憐でメヘンディとかのお仕事の実力をきちっと確立してる上での阿呆っぽいツイートなわけなので、それがかえってギャップ萌えというか、そういう要素もあるわけなんですけどね。
実際、彼女のツイッターはとても面白いので、私はお金払っても読みたいくらいのファンなのです。

・・・ただ、ホントに、ウンコ表記は多いよね・・・。
スズケーさんのツイッター。

「『ウンコ・メヘンディ』で検索しても、スズケーさんのツイッター、絶対トップに出てくると思うよ。」

仕事の早い彼女は、早速検索した模様。



「・・・・・でた!!」



「でたよ!上位10件中6位が私関連だわ!
 しかも『マエダナツコにうんこのメヘンディ描いてもらった』っていうのが1位だったわ・・・!!!」




・・・・!!!




・・・え、

それってもしや・・・!!


いつだったか名古屋でメヘンディ描きの仲間たちと、シーシャをくゆらせながらお遊びで私がスズケーさんの足の内側に描いた、あの・・・!!


「『うんこ好きのスズケーさんの足にうんこのメヘンディ描いてあげる』ってナッツンが描いてくれたじゃん。」



・・・・



最悪です。


まさかそんな内輪で楽しんだくだらないお遊びのメヘンディがネット検索のトップに上がってくるなんて・・・!!


・・・だ、だって、メヘンディのペーストを扱ったことがある人なら誰しも一度は思いを馳せるとおもうんですよ!

ヘナペーストでカタツムリの殻みたいの描いたら、アレそっくりだろうな、って・・・!!





・・・しょうがないじゃないですか。
メヘンディ描きのサガみたいなもんですよ。
(ウソですスイマセン)




































2016/11/21

剥き殻




「発生学的には胎児の時に女から男がつくられるわけだけど、人間の性欲の発達としてはその逆なんだよ、っていう話をこの間、本で読んでね。」

その日は好きに喋りたい気分だった。
倉庫みたいなコンクリート張りの床のアトリエは大きなストーブをつけてるせいで冬でも妙に暖かくて、私は裸のまま薄い毛布にくるまりソファに寝ころんでいた。


横ではユキヒトがナイフで柿の皮を向いている。

「ほら、生まれる前にお腹の中で、7週目までは胎児は最初はみんな女だっていうでしょ。そこから胎児の大陰唇が綴じてクリトリスが肥大して男の子ができるわけ。言ってみれば、男は女から作られるわけだよね。だけどね、この間読んだ本でおもしろかったのは、人間の性欲の発達の仕方っていうのはその逆なんだって。産まれてきた子供は男の子も女の子もどちらも初めは男の子としての性欲を持っていて、つまり、どちらも男性器を女性器に入れたいという能動的な性欲を持っているんだけど、途中で女の子は性欲の在り方を逆転させるんだって。入れたいという能動的な性欲から、入れられたいという受動的な性欲に。」

「まあ、それは、女の子にはぺニスがないからね。」

「そうそう、勿論、無意識下の話だけどね。フロイトの、幼児性欲ってあるでしょ。人間は赤ちゃんの時から性欲があって、それが口唇期、肛門期、男根期...その後はなんだっけ?まあ、そんな感じで形を変えながらセックスへの欲求へと発達していくってやつ。その男根期のあたりの話かなと思うんだけど、大体4,5歳くらいのことだよね?女の子はその時期に、自分にはぺニスが無いってことを発見して、性欲の在り方を変えるんだって。ぺニスを膣に入れたいという能動的性欲から、膣にぺニスを入れられたいという受動的な性欲に。」


ユキヒトの手の中で、柿はくるくる優雅に弄ばれて皮を剥がれていく。
器用な男の手がナイフで果物を剥く様はとてもセクシーだなと思いながら、私は喋り続ける。



「・・・てことはさ、男の子は自然と男の子になれるけど、女の子は、男の子になるつもりだったのに無理だとわかって女の子になることにした、ってことでしょ。私、その感覚ってすごくよくわかるんだよね。別に、私は本当は男の子になりたかったのに、て話じゃないよ。私はある日突然、女の子だってことに気付いて、そこから自分の色々なものを方向転換させてきた、って話。だけど、私に限っては、それはいわゆるジェンダーのような「女はこうあるべき」という社会規範や概念のこととは全く無縁の話でね。たとえば親に「あなたは女の子なんだから」とか言われて、気付かされたわけじゃないのよ、ある日突然、自分にはぺニスがないんだ、って気付いただけなの。それは初潮がくる何年も前の話だから、私がそういう風に自分を女の子だって自覚したのは生理の有無じゃなくて、ぺニスが無いってことだったって、そういう話なんだけどね。」


ユキヒトの手の中で柿が素直にふたつに割れた。
いる?と差し出されたけど、私は基本的には柿が嫌いだ。
柿、好きなの?と私が聞いたら、うん、子供の頃に庭になっててね、ノスタルジーみたいなもんかもね、と、言ってユキヒトは笑った。


柿を剥く指とその暖かい石油ストーブの匂いのするアトリエの空気が心地よくて、私はこれからは柿が好きになるだろうと思った。私の好き嫌いなんて、その程度のもんなんだ。



「でね、結構はっきりと覚えているんだけど、私は精神的には、5、6才の時に女の子になるってことを始めて、12才の時に完全に女の子になったの。私の初潮は10才だから、それもやっぱり肉体的な生理とはまた別の話。私は12才の時にはもう大体、異性としての男っていう生き物の生理がわかっていたし、男の性的な欲求にどう対処すればいいのかはわかっていたわけ、それは多分その女の子になる過程で、たくさんの変質者とか幼児性愛者にモテてたせいもあると思うんだけど、そう、それはそれはよくモテてね、一度、誘拐されかけたこともあるし、下校中に後をつけられたり、電話をかけてきて卑猥な話を永遠と聞かされたり、建物の影につれてかれて裸にされたこともある。一度、私を羽交い締めにして物陰で服を脱がそうとした男と同じ顔の男が、ある日テレビに出ててびっくりしたことがあってね。そのテレビに出ててた男は隣街で幼女の誘拐殺人事件の犯人として捕まってて、何年かあとに死刑になったけどね、まあとにかくそういう変な男にすごく好かれてたわけだよ。そういう目に何度もあってるとね、どういう時に男が興奮するのか、自分のなにが男の興味をそそるのか、子供ながらにわかってくるものなんだよ。それは結果的にその後も自分を性的な被害から身を守る術になったし、幸い私はとても自己肯定感の強い子供だったから、その経験がトラウマになるってことは、なかったんだけどね。だから別にこれは、私の不幸な幼少時代の話では全くないのだけど、むしろ、それは私の人生に置いてとても良い経験だったわけなんだけど、それは、わかってもらえる?」


わかるよ、という目でユキヒトが私を見た。


「まあそんなわけで、結局私は自分が最初から女の子だったわけじゃなくて、まるで段々に女の子になっていった過程を結構明瞭に覚えているわけ。で、もしそんな風に全ての女の子が、最初から女の子だったわけじゃなく、女の子になっていく、のだとしたら、女の子の性欲の形成の仕方はとても複雑なものになるわけで、だって、もともと男根を膣に入れるという能動的な性欲を受動的な性欲に逆転させるわけでしょ、しかもその逆転は男になれなかった挫折感、劣等感、方向転換せざるを得なかった屈辱感が多かれ少なかれ伴うから多くの場合は順調にはいかないんだよ、まあ、その順調にいく程度というか、うまくいかない程度にも個人差があるわけだし、さらに、そこにはその時の時代や文化の影響も受けるわけだよね。だから、結果的に女の子の性欲っていうのは多様で複雑ですごく個人差が大きいわけ。よく女の性欲が無いと言われたり複雑だとかよくわからないとか言われるのは、もしかしたらそのせいじゃないかとも、思うんだよね。」

「うん」

「私が12才の時にはっきりと思ったのは、女の子としての私は、男の性欲というものの攻撃性や支配欲の対象であること、虐げられたり侮辱の対象であること。もちろん、それは男の人の人柄とか精神性の話じゃなくてね、男の性欲の基盤がそういうものだってことでね。ほら、よく言うでしょ。男の人には根本的に根深い女性恐怖がある、って。それが、男の支配欲と根本で結びついてるって。」

「ああ、それ、なんか覚えてるな。それたしか前に俺があなたに貸した本だよね?うん、なんか覚えてるよ。その、男の女性恐怖っていうのはさ、乳児期っていう自分が徹底的に弱い赤ちゃんの時に、異性である母親に育てられていたってことから発している、ってことだよね。男が女を支配したがるのは、その母親の支配からの脱却のための過程、っていうか、そういうことだよね。」

「そうそう、男の子の中では、自分が庇護されてる時の母親は全知全能の神のような存在なわけだし、そして庇護されてる時の自分自身はまだ赤ん坊で全くの不能だし、女を支配しないことには、男の人は自分の不能状態から抜けられないんだって。勿論それは、無意識下の話なんだけど。そういう話聞いてさ、男の人って、ああもしかしたらそうかもなあ、とか思ったりするの?」

私が聞いたら、ユキヒトは少し笑って、わからない、と答えた。

「まあ、そうだよね。誰も、乳児期の記憶なんてないしね。だけど、そう考えると、いままで不思議だったことが、よくわかるような気がするんだよ。なんで、女の身体が商品になるのと同じように、男の身体は商品になりにくいのか、とか、なんで男の身体や性器は視覚的に女を興奮させにくいのか、私は初めて男と寝るまでは性的な妄想の対象が女性のヌードだったんだけど、それはなんでなのかとか、ね。」

「ああ、女体が女の性的対象になるっていうのはさ、結局は女の子の能動的性欲から受動的性欲への逆転が、かならずしも完遂されないってことだよな。女の中にも、きっと代わり切れなかった能動的性欲が残るんだろうな。だから、女の性欲は男ほど単純じゃないんだろう。曖昧ていうか、複雑なんだよ。それは同性愛とはまた違うと思うけどね。」
  
「・・・そう、で、話が戻るけどね、私はさ、その12歳の時にはね、男の性欲の基盤には攻撃性や支配欲があって、だけどそれを受け入れない女に、男は欲情しないってことも同時にわかってたの。つまり、男の攻撃性に対して怖がったり逃げたりしない女を、逆に男は嫌がるし興味を無くすし、ある時は恐がるのよ、それがわかってから、私は全く男が怖くなくなったの。不思議なんだけど、それと同時に、そういう性的な被害に合うことも全くと言っていいほど無くなったんだけどね。」



ユキヒトは黙ったまま、私が寝転んでる黒いソファに腰を掛けた。
その黒い革張りのソファはいつも私たちのベッド代わりにされてるせいで、もうスプリングも壊れて革も破れてクタクタになってしまっていた。


それでも妙に寝心地がよくて、愛着が湧き、結局 別れるまでの数年間はボロボロのまま使い続けていたが、そのボロボロのソファはユキヒトのその質実なアトリエによく似合っていて、そのとき彼が手にしていたナイフや柿や指と同じように、心地よく美しかった。


「だから、私は基本的に12才の時から男の性欲の在り方を否定してるし、支配欲と攻撃性に裏打ちされたすべての男の性的な妄想に付き合う気は全くないの。だって、それは多かれ少なかれ自分に屈辱感を与えるからね、私の自尊心と男の性欲はどうやったって両立しないのよ。だけど、すべての男のそれを否定してたら恋愛もセックスもできないわけで、どうしようもないでしょ。だから、私は自分が好きになった男の性欲だけは、受け入れてあげようと思ってるの。だから私は自分の自尊心をすり減らしながら、好きな男を愛していて、自分を消費しながら、好きな男とセックスをしてるの。それはもちろん、その男のためじゃなくて、私自身のためなんだけどね。」


コンクリートの床には、切れ目なく渦巻き状に剥かれた柿の皮が落ちている。

器用な男の指で、綺麗に剥かれた果物の皮は無理が無く美しくて、
羨ましくなるくらいに、幸せそうだと思った。









2016/11/14


久しぶりに酷い夢を見た。

思いつく限りで最悪の夢だった。


深夜、動揺で呼吸が浅くなったせいか、頭に血が昇り軽い吐き気を感じて目が覚めた。



「奇形の性器を持った人たちが、でてくる夢だったんだよ。」

数日後、会った友人のナオミさんにその夢の話をした。

「性器が奇形って言ってもさ、両性具有とかそんな魅惑的な奴じゃないんだよ。本来あるべきじゃない身体の部分に男の性器が生えてたり、その性器が中の内臓と連動してその内臓と一緒に脈打って動いてたりするんだ。女の性器がこう開かれた中には膣口の代わりに眼球がそこにあって、その眼はちゃんと神経も通っててこちらを見据えていたりしてね。でね、一番印象的だった場面なんだけど、真っ暗な暗闇の中で、胸部にナマコみたいなできそこないの男性器が生えてる男が出てきてね、その男が、その胸部の性器を手で擦りながらオナニーしてるわけ。もちろん、こっそり隠れるようにやってんだよ。自分の性器が奇形で醜いから、それを隠すように暗闇の中でね。で、オナニーしてるってことはさ、もちろん興奮しているわけでしょ。興奮して、血圧が上がって、筋組織に血液が流れ込んで、身体が活性化してくるでしょ。でね、その男は性器が胸部にあって形も変で奇形ではあるんだけど、なんていうか身体そのものができそこないで、皮膚や血管とかの身体の組織自体がすごくもろくて、そのオナニーの興奮に身体がついていかないわけ。興奮して、身体が活性化すればするほど、身体の組織がそれに耐えきれなくて、皮膚のあちこちが裂けて血液が噴出して、身体が血だらけになっていくんだ。もちろんその男は失血して死にたくないからオナニーをやめようとするんだけど、その性的な興奮を抑えることができなくて、やめられなくて、身体のあちこちの皮膚がぱっくり割れて今にもその身体自体が脊柱から砕けて肉片になってしまいそうになりながらも血だらけのままオナニーしてて、私はそれを目の前でずっと見てた。もちろん夢の話だからさ、支離滅裂だしツジツマも理屈もないめちゃくちゃな内容だから、私がこうやって話してどれだけその時の私が感じた衝撃が伝わるんだろうって気もしなくはないんだけど。ただ、ホントにその夢が衝撃的でさ、気持ち悪さ的には、顔の毛穴全てから芋虫が出てくる夢を見たときに匹敵するくらいのもんだったね。」


国分寺の北口のスターバックスで、ナオミさんにそんな話を聞いてもらった。
贔屓にしていたドトールが数年前に閉店してしまってから、結局国分寺ではここを愛用するようになってしまった。


「・・・へ~~! なんだろ!すごいな!夢は、確実に潜在意識だと思うんだけど、私は夢判断的なセラピーは面白くないからやらないことにしてるんだ。でも、おもしろいね、その夢の話。」

「うん、そうだよね。夢って確かに潜在意識なんだけど、出てきた人とかストーリーって、大体の場合特に意味はないんだよね。私はそれより、その夢の中の自分が感じている感情の方がおもしろいよ。理性は嘘つきだけどね、感情は正直だから夢の中でもいつもそのまま露出してくるでしょう。そういう意味では夢ってすごくダイレクトだよね。直視したくなくて無意識に隠していた感情が夢に出てくるって、私の場合はよくあるよ。」


夢の話をこの友人のナオミさんにしたのは、ナオミさんがメンタルとフィジカルを扱う療法士であることと関係があった。私はこれより二か月ほど前から原因不明の精神的な疲労感と虚脱感から抜けられず、なんというか少しだけ気持ちが参っていたんだ。


「その奇形の性器を持った男はさ、本当は自分のそんな醜い性器を見るのも嫌で、できることならだれの目にも触れることなく隠しておきたかったんだけど、ほら、ふつーに性欲が湧いて興奮してくると、そんなナマコみたいなできそこないの器官でも大きくなって立ちあがってくるわけよ。で、大きくなると隠しておけないでしょ、それで動揺して隠そうとして慌てるわけなんだけど、結局、その欲求に逆らえずにオナニーをし始めるわけ。で、最終的には身体が血だらけになってもオナニーがやめられなくなるわけなんだけど。・・・・なんていうか、すごくグロテスクで滑稽で、それで切ない夢だったんだよ。奇形の性器っていうすごくグロテスクな自分が見たくもないものを直視しながら、自分の命の危機すらも足蹴にして性欲に支配されてる人間っていうのが、なんかすごく哀しいっていうか・・・なんか、そんな感じの夢だったんだよ。」

「その男っていうか、それもマエダさん自身なんだろうけどね。夢に出てくるのは、みんなその人自身だから。」

「そうだね。当たり前のことだけどそれは本当にそうなんだよ。私は、人が欲望を持つ、なんて言い方は嘘だと思ってるから。欲望は人に所有されたりなんかしないよ。欲望は常に人の上に在って人を支配してるもんだと思ってるし、その欲望はある意味では自分ひとりの命なんかよりも強くて重いもんだと思ってるし、だって、特に性欲なんていうのは種の保存のための欲求でしょう。個の欲求っていうより、種の欲求なわけでしょ。自分一人の命なんか、性欲の前では屁みたいなもんなんだよ。そういう意味では、死ぬまで欲を果たし続ける今回の夢も、何も不思議なことはないんだよね。ただ、いままで私が漠然と思っていたことが、あまりにグロテスクで具体的な形で表れてきただけのことで。」


夢の中だというのにその男は、やけに生々しい皮膚をしていた。
皮膚の湿度は人間のそれというより、まるで海の生物のような硬質で原始的な生生しさがあった。

夢の中だというのに、かすかな潮の香りのようなものも感じた。

その男はそんな海の生々しさの象徴のような自分の性器を嫌っていたのかもしれなかったが、その一部を持つ肉体自体を生かす力と、生かされている理由も知っていた。

自分の命を超える優先事項。

顔は見えなかったが、男は泣いているような感じがした。
自分の身体の醜さと、自分の肉体すら自分でコントロールできないことを哀しみながら、それでもなお身体を突き動かす興奮に身を委ねることの快感に、浸っているようにも見えた。

興奮で軋んだ身体から流れたその血液は、その男の肉体から流れてまた海に戻るのかもしれないと思った。

自ら自分の命を無下にするのはひどく哀しいが、
それは自分の上に君臨する大きな力に身を委ねることと同じと思えば、ある意味、甘美とも言えなくはない。


ナオミさんと話しながら、ふと思った。
ああそうか、だから、
哀しい、じゃなくて、切ない、んだな。


身を切られるような悲哀の隙間に、垣間見えるかすかな甘美。
滑稽とグロテスク。


身体じゅうから失血した男は、欲望のままにそのまま死んでしまったんだろうかと考えた。
それとも強い欲求に身体がついていかず、欲望を果たせぬまま血だらけの醜い身体を抱えて惨めに泣いている結末もアリかもしれない。
死ねば滑稽で、生きていれば惨めだ。

だけどまあそれはどちらでもかまわない。

どちらにしても、そんな哀しく惨めな夢の中のその男を、私は愛おしいと思った。


***


「結局、人間として生きていて、どれだけのことを自分で決めることができてるんだろうって思うんだ。だって、私は自分の身体すら、自分でコントロールできてるわけじゃないでしょう。身体は、私の意志とは関係なく勝手に生まれて、勝手に生きて、勝手に死ぬ。その間は幸運にも恒常性をもって動いて、勝手に病気になって、運が良ければ勝手に治る。その中で私ができることといえば、せいぜい余分なストレスで自分を病気にしないことくらい。自分の身体は、いったいどんな大きな力によって生きさせられているんだろうって思う。それは別にさ、自分を生かしてくれてる周りの人々に感謝しましょう、みたいなそんなありがたい話じゃなくてさ、なんてゆーか、自分は別に自分が生まれたいだけの理由で生まれてきたわけでもないし、自分が生きたいだけの理由で生かされてるわけでもないってことでね。自分の肉体が生まれてきた目的や理由は、ある意味ではきっと私個人のそれとはまったく関係がないんだろうね。」

自分の個の身体としての、したいしたくないの意志はお構いなしに、きっとそれ以上の欲望としての大きなエネルギーというものがあるんだろう。
それがたとえ美しく優しい光のようなものではなく、すべての光と色を内包するグロテスクな海底の暗闇であったとしても。



「まあ、たしかに、特にセックスの問題って、大きいからね。人間のおおもとの部分だから。私のところに来る患者さんでも、結局、最終的な問題はそこだろうって人、多いよ。精神的にも、肉体的にもね、セックスの問題が、病気として現れる人って多いんだよ。このあいだもさ、こーんなふうに、身体がこわばって動かなくなっちゃってるような人が「先生、どうしたらいいですか」ってきたけどさ、なんつーかそれはもうあなた、「セックスすればなおりますよ!」て言ってあげたいくらいだったけどね。まあ、言えないけどね。」

「・・・ああ。わかるわ。あ、だけど、女の人の場合は、セックスすれば、っていうか、したい相手としたいときに良いセックスすれば、ってことだよね。逆の意味で、セックスしてることが原因で病気として症状が出る人もいるだろうね。まあどちらにしても、身体や精神の問題がそこに行きつくことっていうのは、少なくないんじゃないかと思うわ。」

「うん、そうだね。」

「でもなんか、不思議なんだけど、あの夢見てから私、ちょっと元気になってきたんだよ。変な話かもしれないんだけど、最近調子悪くなってから性欲も枯渇してる感じがしてね、調子悪いから枯渇してんのかと思ってたけど、むしろ枯渇してたから調子悪かったのかな、なんて思ったりもしてさ。なんか、あの夢見てから、ちょっとお腹のあたりに力が湧いてきているような感じはするよ。笑」

「あはは!そうなんだ、まあ、どっちが原因かなんてどうでもいいことだよね。まあ、夢のことはさ、意味がどうこうっていうより単に、自分にとっての性欲がそういうものだってことを、思い出したっていう、単にそういうことでいいんじゃないのかな。」

うん、ホントにそうだねえ。

自分が、死を目前にオナニーできるかどうかはわかんないけどね、
だからあくまで観念的なもんではあるんだけどね。



っていうか、新年早々、毒々しい話でごめんなさいねって感じですが
今年も私らしくいろいろがんばりたいと思います。


よかったら今年もなかよくしてくださいね。

2016年もどうぞよろしくおねがいいたします。



*謹賀新年*