2013/02/06
トンカツ屋にて
ちょっと前の話になるけども、お客さんからおもしろい話を聞いた。
「国分寺の駅ビルにさ、トンカツ屋の和幸ってあるじゃない。
この間トンカツ食いたくてね、和幸の店先のショーケースの前で
メニュー眺めながら何食おうか考えてたんだけど。」
このお客さんは有さんという60代の男性で、マエダの古くからのお客さんである。
職業柄か話し方が上手いのでどんな話でもこの人が話すとおもしろいのだが
この話は格別におもしろくかなり印象に残った。
「でね、国分寺の和幸の店先で、
今日はヒレカツでも食おうかなとか俺が考えてるとこにさ、
不意に30がらみの女が近づいてきてね、
一緒にメシを食ってもいいかって、聞くんだよ。」
・・・
「別に断る理由もないからあいまいにうなずいたら席までついて来てさ。
俺がヒレカツ定食かなんか注文したらその女はなにも注文しないで、
なんだか勝手に話しはじめて」
・・・
「どこまで帰るの?とか私はまだ西武線に乗り換えなきゃいけない、通勤が大変、とか
その女が勝手に話し出してね。『御馳走になっていいかな』って聞いてきたから」
・・・
「なんで俺が貴方におごらなきゃならないの?ってはっきり言ったら、
『どうも話が合わないみたい』って言って、席立って去っていったんだよ。」
・・・
有さんの話によると、その30がらみの女はハッカのような不思議な匂いを残し
その場を去っていったという。
「ハッカみたいな匂い」に彼は話の中で妙にこだわり、
あれはなんの匂いだったんだろうなあと首をかしげていたので
彼の中ではその匂いが妙に強い印象として残ったんだろう。
それにしても、「大体年頃が30歳くらいの女」を「30がらみの女」と表現するのはやめて頂きたい、
なんというかちょっと必要以上に歳を重ねた女のすえたニオイみたいなモノまで漂ってきちゃうじゃないですか、その言葉だと。
・・・と、一応、30がらみの女である私は有さんに意見したのであるが、
それに関して有さんは特に関心が無いらしく、どーでもいい感じであった。
有さんに声をかけたこの30がらみの彼女は
おそらく話が上手く合えば、お金を頂いて数時間床を共にするつもりだったのだろう。
「もうちょっといい女だったら、御馳走しないでもなかったんだけどね。
残念ながら、あの店は照明が明るいのだ。」
と、いつでも美女には不自由しない有さんは言っていた。
この話をきいてから、妙に国分寺のトンカツ屋の和幸が気になり、
今年の初めにトンカツを食べにこの店に寄った。
私はヒレカツではなくいつでもロースカツ派なので
お正月ということもありちょっと高価ななんとか豚のロースカツ定食というのを食べた。
勿論、私がひとりでトンカツを食べてても声をかけてくる女はいなかったけどね。
世界のいたるところで春を売りたがる女たちは客を探しているのだろうけど
それがこの国分寺のトンカツ屋であったということが、
私的にはなんともほほえましく、うららかであったのだ。
ちなみに、以前私はこの彼に「美人で力持ちのタイ式マッサージ師」と形容されたことがあり、
そのちょっと小粋な呼び方は今でもとても気にいっている。