2012/02/09

関係



「このあいだ、私、始めてSMのプロの人に縛ってもらったんだけど。」

先日、友人、ねえさんと新大久保で韓国料理を食べました。
ねえさん、とは言っても、私の姉でもなければ誰か友人の姉でもありません。
ひとつ年上の、学生時代からの友人です。
年がひとつしか変わらないのに、なぜか世話をされることが多いが故にいつしかそう呼ぶようになってしまいました。

寒空の下、新大久保駅改札を出て右手に大久保通りを、お互い近況報告をしながらふらふら歩き、
適当に眼についた店に入りました。

「・・・そういえばなっちゃん、前からプロに縛ってもらいたい!って言ってたよね。」

「うん、M友達の紹介でそういう人に会ってさ、結構その道では有名な加賀さんって人なんだけど、
 やっぱプロはすごいね。会った瞬間にオーラを感じたよ。」

「で、どうだった?」

「うーん。もともと私、SでもMでもなくノーマルだって自分でわかってたんだけどさ、
 それでもなんかこの世界への関与が諦めきれなくてね、今回 縛ってもらったんだけど、
 やっぱり、私は縛りにはあんまり興味ないってわかったよ。
 イヤじゃないんだけど、何にも感慨はないってゆーか。」

「ふうん。じゃあ、気がすんだ?」

「いや・・・。縄はどっちでもいいけど、意外と鞭は好きなことが判明しました。」

「ああ〜なるほど。鞭、ふるう方?」

「どっちも。やるのもやられるのも。あの、振った時のヒュンって音がスキ。
 緊張感を煽られるんだよね。
 あの鞭ってさ、意外と音がしっかり鳴るわりには痛く無いんだけど、
 強く叩けばそれはそれでやっぱり痛みはあるんだよね。
 でもその痛みがさ、なんか瞬間的で持続しないの。
 だから、打たれるたびに、もっと強くても耐えられるかも!とか思っちゃって、
 もう一回!!って挑んじゃうんだよね。」

「・・・はあ? それって挑んで何かをクリアしていくものなわけ?
 SMってそういうものだっけ?」

「いや、違うよ、挑みたがるのは私の個人的な趣向かと。
 なんかさ、痛みを受ける時って、ものすごく精神がその痛みに集中するんだよね。
 頭はすごいクリアになるし、自分が耐えうるギリギリのレベルの痛みまで挑みたいという、
 妙な向上心と集中力が湧いて来て、ものすごいハイになるんだよ。
 なんか、滝行とかってこんな感じじゃないのかな。
 あっ 筋トレにも似てるかも。耐えうるギリギリの負荷を求めるあたりが。
 何にも考えられなくなるくらい集中することって普段なかなかないしね。」

「てゆーか それってなっちゃんはMじゃないだろう・・・」

「うん、そうなんだよね。私にとっては鞭って精神的な筋トレっぽい感じかも。
 終わった後、ハイを経てなんか超スッキリしてるし。
 M友達のゆうきちゃんってコがさ、
 縛られた縄とか鞭の痕が翌日残ってると嬉しくなるって言ってたんだけど、
 その気持ちがちょっとわかるわ。
 私、もともと腕が内出血しやすくて、腕だけ縄の痕がくっきり残っちゃったんだけど。」

「てゆーか・・・痛く無いの?縄はともかく痕が残るくらいの鞭なんて。」

「いや、痕が残るくらいまで強くやると、さすがに痛いらしいよ。
 ゆうきちゃんいわく、ドスッ!って音がしないと、痕は残らないらしいけどね。」



・・・・。


しばし、白菜キムチとのり巻きを食むふたり。




バリ料理で刺激されまくった舌が未だにスパイスを求めるのでこの日はわざわざこのねえさんを誘って
韓国料理を食べに来たのですが、意外と韓国料理って味がマイルドだと始めて知りました。


「てゆーか、なっちゃんさ、SでもMでもないのに、一体 縛られて打たれて、
 最終的にどうなりたいの?てゆーか、最終的にどうしたいわけ?」


・・・う〜ん。

実は自分でもよくわかんないんですよね。
でも興味が赴くということは、ある程度自分にとって重要なことかとも思うのですが。

なんか、私にとってSMって、セクシャルな遊びである以前に、
SM的な人間関係に在り方に昔からとても興味があるんですよ。
なんで主従関係なの?なんで痛いのが気持ちいいの?みたいな。
惹かれるのはそのへんですかね。

「いや〜。自分でもよくわかんないんだけどさ、だからこそその世界に片足でも突っ込んでみれば
 少しくらいはなんかわかるかも知れないな、と思って。そんな感じなんだよね。」


てれてれ光る春雨を箸で弄びながら、なんかちょっと、呆れ顔の、ねえさん。
今まで、このねえさんの呆れ顔を一体何度見て来たことか・・・。
まあ、なっちゃんがいいなら、いいけどね・・・みたいなね。


「てゆーかさ、なっちゃん、一応、 心配してんだよ?」


ですよね。

てゆーか、なんか、心配されるのって、なんか嬉しいもんだなあ。

ねえさんに呆れられるのって、私なんか好きなんです。

ちょっとだけねえさんに馬鹿にされながら、世話されるのも、なんだか嬉しいんです。

この関係も、なんだかちょっと変ですけどね。