「昔から、『お金』のこと考えると頭が痛くなるんですよ。
自分が貰う給料のことでも、税金のことでも、支出のことでも、全部だめです。
比喩ではなくて本当に頭痛がして気持ち悪くなっちゃうんで、基本的に普段、
お金のことは考えられないんですよね。」
数年前の春、友人のイトスギさんにこんな話をしました。
なんだか季節の変わり目には色んなことを思い出しますねえ。
「お金」がダメなのは、マエダの実際の話です。
ホントにダメなんですよ。
ものを買う時の簡単な金勘定くらいはいいんですが、
たとえば「仕事」のことは寝食忘れてでも夢中になれるくせに、
その「仕事」を「金を稼ぐこと」だと思うと、
急に身体がダルくなっちゃって働けなくなっちゃうんですよ。
「お金」を自分の働くためのエネルギー源にできないんですね。
たぶん、そういう人って意外とたくさんいるんじゃないかなあ。
この資本主義社会で甘ったれてると言われればそれまでですが、
資本主義社会っつったて今の経済システムも私の関係ないとこで誰かが勝手に作ったもんだし、
わたし全然興味もなければ理解もできないんだもん。
「お金に興味無い」っていう、もうこれは仕方ないんです。
だって実際に頭痛くなっちゃうんだし。
それはそれでなんとか生きて行けるもんなんですよ。
まあ、困ることといえば、仕事において長期計画が立てられないってことですかねえ。
「たまにさ、『金儲け』自体がすごく好きで、楽しくて楽しくて仕方ないって人がいますよね。」
「いますね〜。あれはもう趣味みたいなもんなんでしょうね。」
「そう、生きる目的になり得る趣味ですよね。
ああいう人って、本当に楽しそうでいいなあって思うんですよ。
好きなことが仕事になっちゃってるわけじゃないですか。
絵を描くのがすごく好きな子が、絵描きになっちゃうのと一緒ですよ。」
「そうですね〜〜・・・あっ。
マエダさん、ちょっと今突然ですが、マエダさんの前世が見えちゃったんですけど。」
「は?? 前世??」
・・・このイトスギさんですが、
そういう物事に免疫の無い方々の誤解を恐れずにいうならば、
「人に見えないものが見える人」なんですね。
私の肉眼では捕らえられない、それこそ色んなものが見えちゃうひとなんですが、
だから普段こうやっておしゃべりをしていても、不意に「前世」とか見えちゃうらしいんですよ。
彼女は普段もそういう「スピリチュアルカウンセラー」的な仕事をしているのですが、
普段のお仕事のなかで「前世」を見ることを目的にしているわけではないので、
あくまでこの時は、たまたま、私の前世が見えちゃったんでしょうね。
「う〜〜ん。これ・・・。マエダさんに言っていいのかなあ・・・。」
めずらしく、発言を躊躇するイトスギさん。
「渋られると、怖いんですけど、イトスギさん。」
「あのですね」
「はい。」
「マエダさん、前世で花魁だったことがあって。」
・・・
ああ〜〜〜〜〜。
はい、正直、それはちょっと自分でわかってました。
花魁かどうかは別として、もし前世という物があるならば、
そういう日本で娼婦的なことをやってたんだろうな、と。
そういうのって、なんだか漠然と感じたりするんですよね。
「なんかですね、マエダさん、その頃から『お金』が好きじゃなかったみたいで。」
へえ。
「なんかね、『綺麗じゃないから』って言ってます。」
どうやら、イトスギさんの脳内スクリーンにでは、前世の花魁のマエダが映って、
そしてしゃべっているらしい。
「なんか小判?みたいなちょっと綺麗な色のお金は好きらしいんですけど、
それ以外のお金は好きじゃないから、すぐに綺麗なかんざしとか着物とかに変えちゃって、
現金の支払いの時とかにちょっと困っちゃう、みたいな。」
「ああ〜〜〜。なんか・・・わかるなあ。。」
結局、前世の私は今の私と根本的には似ているもんなんですね。
お金で買える物には価値があるけど、お金自体には価値はないと、私は思うんですよ。
そう考えると、「お金」ってやつは何ともけったいな代物ですよねえ。
「きっと、そんなんじゃ前世の私は、結構・・生活も大変だっただろうなあ。」
「うーん、でも、なんか打ち掛けみたいなの着てるし、
どっかの旦那さんにちゃんと身請けされたみたいですよ。」
「そうか〜。そりゃよかった・・・」
正直、人ごとながら(人ごとじゃないけど)なんかホッとしたんですよ。
自分と同じ価値観を持って生きた人が、とりあえず不幸になっていないと知って。
イトスギさんいわく、
人は人にしか生まれ変わらなくて、
凄く簡単にいうと、私という魂が生まれ変わりを繰り返して行くらしいんですね。
生まれ変わるたびに、「私、今回はこれをやります!」っていう目的を誰しもが宣言して、
自分で肉体を選んで、目的をもって産まれてくるんだそうです。
そして、前世でこれをやったから、今世はこれ、で、今世でやりきれなかった課題は来世へ、
みたいなかんじで、自分が納得するまで、色んな人生に挑んで行くんだと。
その日は、桜も散り際の薄ら寒い春の日。
国立のカフェの窓、イトスギさんの肩越しに真っ白な桜が見えました。
「イトスギさん 私ね、これから友達と夜、花見にいくんですよ。」
「それはいいですねえ。」
「うーん、ちょっと夜は寒そうだけど・・・。」
「あっ。なんかね、前世のマエダさんが。」
えっ まだ なにか?!
「『桜は、バッと咲いて、バッっと散るのがいいんだ』って。
あとですね、『桜の下で飲み食いするもんじゃない』って。」
・・・なるほど。
「なんか、それが前世のマエダさんの美学、みたいな感じなんでしょうねえ。」
・・・なんだか、前世の私とやらは、さぞかし強いというか、
良くも悪くも潔い女だったんでしょうねえ。
正直 今は、そこまで潔くはなれないけどね。
なんだか、「お金」の話から、全く違う方向に話が進んでしまいました。
「ああ、そうですねえ、でもねマエダさん、
なんかね、仕事とか、恋愛とか、お金とか、身体とか、食べることとか、
どれかひとつじゃなくて全部、全部ひっくるめて、「生きる」ってことなんですよね。」
既に 外は陽も落ちて、白い桜は いっそう 鮮やか。
こんなふうに、きっと、ただ一瞬の、真っ白な桜の色が、
わたしの魂に、刻み込まれていくのかもね。