2011/10/18

ヤギと鎖骨


「ナツコ、久しぶりだね。何年ぶりよ?」


新宿アルタ裏の飲み屋、4年ぶりにあった友人アイダちゃん。
マッサージを初めて一番最初の、銀座の店に勤めていた頃の仲間です。


「4年ぶりくらいだよ、あれ?最後に会ったのっていつだっけね?」


「え? ナツコ、忘れてんの。最後に会ったのは池袋の沖縄料理屋でしょ。」


え?


そうでしたっけ?


なんだかたった数年前のことなのに、意外と思い出せないもんです。
意外と私、記憶力はある方だと思うんですよ。
人と話したこととか、一言一句、結構しつこく覚えていたりするんで。


「え〜? 沖縄料理屋なんか行ったっけ? アイダちゃんと二人で? 
 全然覚えてないよ。行ってないって! 私じゃなくて別の女と行ったんじゃないの〜?」


かるーく反論したつもりが、いきなり鋭く切り返されました。


「は? ナツコあんた、なーに言ってんの!
 池袋の芸術劇場の裏の沖縄料理屋に行ったでしょ。
 ナツコが「ヒージャー」っていうヤギの刺身が美味しいって言うから一緒に食べたでしょ。
 私はヤギとか臭そうでヤダって言ったら、「ヒージャは臭くないから大丈夫」ってあんたが言って。」
 


???




全く・・・覚えてない。
ていうか、私 今までにヤギって食べたことあったっけ?
それにヤギがヒージャーっていうって初めて知りましたけど?
人に勧めるほど美味しかったのに、なんで私、ヤギが美味しいって経験すら記憶にないの? 
てゆうか、それ、絶対 私の経験じゃないって!!


「うそだ!!それ 絶対 私じゃないって!ヤギなんか食べたこと無いもん!」


確信をもって、マエダ、友人アイダに反論しました。


「いや、食べたってば。確かに実際食べてみたら臭みもなくてまあまあ美味しくてさ。」


・・・


・・・


・・え〜〜〜


本当に、記憶に無い。
滅多にそんなこと、無いはずなんだけどなあ。


ただ、この今年26歳のアイダちゃん、ものすごく冷静に、色んなことを覚えている人間なんですよ。
単純に記憶力が良いというよりも、なんてゆうか感情とか状況に左右されない冷静な認識力をもって生きているというか・・


なので、このアイダちゃんを前にすると、このマエダも、ちょっと弱気。


「そうだったかなあ。でもアイダちゃんがそういうなら、そうなのかなあ。」


「そうだよ、ナツコはさ、ホントーに自分がやったこととか言ったこととか、どんどん忘れてくからね。
 この際だから言わせてもらえば、その沖縄料理屋の前にもう一つ 別に約束してて、
 それをナツコは30分前にいきなりドタキャンしたからね〜〜覚えてないでしょ!」


・・・! 覚えてない!!


「30分前にいきなりメールよこして、「この間フッた元彼がやっぱり惜しくなったから、今から取り戻しに行ってくる!」って。「やっぱりあの彼の鎖骨が好きで好きでたまらない、噛み付きたいくらいだ、他の女に噛み付かせてたまるか!」って、私との約束断って、あんた、男を取り戻しにいったでしょ。」


・・・


ああ


たしかに・・


そんなことがあったような無かったような・・


ってゆーか、鎖骨が好きって・・・それなに?


私、その男の鎖骨とか、全然 記憶に無いんですけど!


ああ なんだか 自分の記憶というものがだんだん信用できなくなってきました。




「・・・いまさらだけど、その時は約束破ってごめんよ、アイダちゃん・・・。」


「おう。なんかさー私、結構ナツコが話したこととか、細かく覚えてるんだよねえ。」


「ええ!? なんか他にも・・・」


「ナツコの新しい職場に、マッチョな幽霊が居る、とか。」


「はあ? なにそれ。」


「色覚異常のお客さんがいる、とかもね。
 やっぱり色覚異常ってX染色体性劣性遺伝だから、男の人が多いんだね、とかさ。
 私、それ知らなかったから、へえーって思ったよ。」


「へえ?色覚異常って、男の人が多いの? 私 いま初めて知ったよ。」


「知ったよ、って、あんたが昔そう言ってたんだよ。
 ホントになにも覚えてないの!?」


はい。 すみません・・・。


いやー。


ひさしぶりにびっくりしました。
一体 人間の記憶力ってヤツはどうなっているんでしょう。
私、日常生活において断捨離って超得意なんですが、これって記憶の断捨離?


使わない記憶はサクサク捨てて来ちゃってるんですかね?
ってゆーか単純に自分に都合のいい記憶だけ抱えて生きて来ちゃってるんですかね、私?


あはは! 怖っ。


多分、その場その場では本気で生きてるんですけどね、
若干、思考も刹那的なところがあるんですよね、
まあ なんとなく自分でも分かってはいるんですけども。




「なんかナツコはさ、常に今を生きてるからねえ・・・。」




ああ、良くいえばそうともいうかもね・・・。
安定しているものっていうのは、常に変化し続けているものなんですよ、
変化っていうのはその一瞬の連続だからね、
なーんて ごめんなさい。
単純に深く考えずに喋っちゃうこととかが多いんですね。
捨ててるわけじゃないんだけど、さらさら流れていっちゃうんですよね。




ああ〜




ごめん、アイダちゃん。
コレからも見捨てないでね?