2012/12/16

言葉


「僕のこと、愛してる?」


・・・・。


ウソでもいいから愛してるって言えばその場はまるく収まるのだけれど
私は自分の気持ちにしっくりこない言葉は口から出せないので
昔から男とのこういうやり取りはとても困る。

私は「言葉」というものをとても大事にしているので
自分の気持ちと、それにきっちりはまる言葉をいつも自分の中で探している。
「愛してる」じゃなくて「ヤリたい」とか「すごく好き」とか
「好きだけど嫌い」のほうがしっくりくるんだけどな。
だけど私にとって最高級の愛情表現の「ヤリたい」って言葉を使うと、大体の男は引くしね。
「俺の身体が目当てなの?」なんて言われちゃったりして、
本当に言葉のやり取りって難しいとおもうよ。

私は自分に違和感のある言葉は使いたく無いので
大体の場合、男に愛してるとは言えないんだよな。

「ほら、御主人様、って言ってみろ。」

と、この間SMのプレイの中で言われたけども
私の辞書の中に男に対するそんな語彙はないもんだから
やっぱりそれも言えないんだよね。

だってさ、そんな言葉、普段は使わないじゃん、
そんな言葉はしっくりこないと私を調教中の加賀さんに悪態ついたら
彼はこんなふうに言っていた。

「SMは言ってみれば空想の世界なんだから、それでいいんだ。
 今はしっくりこなくても、言ってるうちにしっくりくるようになるんだよ。」

御主人様、と繰り返し言葉にしていれば、
そのうち相手の男を自分を支配する主人だと自然に思うようになる。
愛してる、と例えウソでも繰り返していれば、
その言葉が身体に染み付いて、愛のようなものを形づくるのかもしれない。

言葉は人を支配する。

私は、それが好きじゃない。

他人の言葉に支配されるのが、イヤなんだよな。

私は自分の心が選んだ言葉で自分を満たしていたいのに。

言葉は自分が作り、紡ぎ出すようでいて、
実は自分が言葉に支配されていたりもする。

人は言葉に何かを託し、放ち、そして自らがまたそれを受け取る。

例えば、住んでいる土地を一時的に離れどこかを訪れることを
ある人は精神性を込めて「旅」と表現し、
ある人は出発から帰着までの行程として「旅行」と表現するように
多分ひとそれぞれに、なんとなくではあっても
大事にしている言葉の使い方のようなものがあるんじゃないのかな。

その大事にしているものは、
多分日常に自分が使う言葉に託されて、そして自分に戻ってくる。

戻ってきたときにそのまま抱きしめられるような言葉を、
ちゃんと私は使えているだろうか?

私の中にある男に対する強い愛情を、
私はずっと「すごく好きだけど、すごく嫌い」という言葉に置き換えてきた。
使い回された「愛してる」という既存の言葉では
自分の思いがどれだけ正確に託せているのか、わからなかったから。

最近はその言葉の意味をそのままに、
そんな「愛している」という言葉に換えてもいいような、
そんな気持ちになってきている。

自分のものでは無かった言葉に、自分が近づいてきたってことなのかもしれない。

自分が変わると、言葉も変わる。

そしてその言葉が滋養になって、自分が形づくられる。

自分を支配する言葉は、自分が決める。

だからウソは、言えないんだよね。