2011/11/13

腸詰め


「なっちゃん、今日は何か池袋に用事でもあったの?」


緊縛の友、M女のユウキちゃんと池袋の中華食堂でご飯を食べた先日のこと。


「ん〜? ああ、そう、ちょっと東急ハンズで買いたいものがあってね・・。」


あさり出汁の中華麺に小龍包、豚バラの葱塩煮込み、餃子をつつきながら、
ユウキちゃんとマエダのひと月ぶりの、会食。


席に着くなり、「お尻が痛い」と言い出すユウキちゃん。


「お尻が痛いって・・・。ああ、そういえばユウキちゃん、先週、久しぶりに彼に会って来たんだっけ?」


「うん、そう、逢瀬の傷跡がね・・・なかなか痛むんだよ。」


「逢瀬の傷跡ねえ・・。お尻、ムチで打たれたの?」


「いや、噛まれたの。噛んだあとをさ、ムチで打たれたから、結構キツくってさ。」


「ええ!? それはちょっとキツくないかい?大丈夫なの?」


「うん、痛いけど、大丈夫。
 てゆーか、痛いのが嬉しいから。
 彼に『なにして欲しい?』って訊かれたから、『残る傷が欲しい』って頼んだの。
 傷が残ってるとさ、それを見れば、またその時のことを思い出して、その記憶に浸れて、嬉しいでしょ。」


・・・


そうかあ。


このM女のユウキちゃんとその彼は、
遠距離ということもあってそんなに頻繁には会えないんですよね。
だから、一回の逢瀬が永遠に匹敵するくらい大切なのではないかと、マエダは推測するわけです。
なんだか不覚にもユウキちゃんの健気さにじーんと来てしまいました。


「いやー。そんないい話のあとでアレだけどさ。」


「ああ、なっちゃんは東急ハンズで何を買ってたの?」


はい、


実はですね、


私はこの日、東急ハンズで「ソーセージ作りキット」を購入したんですよ。


私、数年前から「ソーセージ作り」が趣味なんですが、
それを友人に言ったところ、「ええ!?ソーセージ!?私も作ってみたい!」と言われたので、
新たに道具を新調して、今度友人たちで集まって作ることになったんです。


「いやー、実はさ、今まで私が持ってたのは「フランクフルト用」の道具だったからさ、
 初めて作るんならちょっと細めの中太ソーセージくらいがやりやすいかなと思って、
 新たに道具を買いにきたんだよ。」


ソーセージを作るのって、結構、力仕事なんですよ。


油が溶けないように低温に維持した固めの肉を、練ったり絞ったりするわけですから。


フランクフルトの太さより、ちょっと細めの方がやりやすいのではないかと、
そう思ったんですね。


とりあえず、先程購入した中太ソーセージ用の搾り器をテーブルの上に出してみました。
このソーセージ絞り器、形的にはホイップクリームを絞るヤツと同じような感じです。
ただ、肉用なので、素材は布だし、絞り口の金具もかなり大振りではありますが。


「へえ〜〜〜。てゆうかさ・・・私、なっちゃんとはもうかれこれ十年ちょっとの付き合いだけど。」


「うん?」


「なっちゃんが、ソーセージ作りが趣味って、初めて知ったよ。」


「ええ?そうだっけ?」


「うん、学生時代に『肉まん作り』がなっちゃんの趣味だったのは知ってるけど。」


「ああ〜〜、うん。肉まんも作る。
 だけどさ、今は餃子も皮から作るし、中華麺も打てるし、ジャージャー麺とか麺から作ったりできるよ。
ここ半年はパン作りも熱心にやってたけどね。」


ちょっと、呆れ顔のユウキちゃん。


「あのさ、もっと 普通の料理、やんなよ。」


「うん、そうなんだけどね・・・。」


うん、そうなんですけどね。


なんか、私の場合、「美味しいっ!!」って褒められるよりも、
「すごいっ!!」ってびっくりされたい、という欲求の方が強くて、
どうしてもそういう男の料理系にいっちゃうんですよ・・・。


私が手にしているソーセージ絞り器をしげしげ眺めながら、ユウキちゃんが一言。


「あのさ、なっちゃんがそのソーセージ絞り器を持ってるとこ、写真に撮っていい?」


「へえ? 別にいいけど・・・。」


「なんか、ソーセージ作りってのが・・・イヤラシいんだよね・・。」


「ハハハ! まあ、確かに肉詰めされた豚の腸を手に持つと、なかなか猥褻ではあるけどね!」


「いや、そうじゃなくてさ・・・。」


なぜか、妙に感慨深げに、そしてかすかに嬉しそうな、ユウキちゃん。


「あのさ、そのソーセージ絞り器を持ってる様が、「お浣腸」っぽく見えるんだよね・・。」




・・・




・・・ああ〜〜〜




なんか私、まだまだ修行が足りませんわ。




そこに存在するただひとつの物体を、
どのように心に投影するかはその人の感受性次第ってことで、


言わずもがな、その感受性が豊かであればあるほど、人はより多くの美しい物と出会えるわけですよね。


ソーセージ作りには対して興味が無いユウキちゃん、
なのに、ソーセージ絞り器を見て、楽しそうな、ユウキちゃん。




・・・美しいものを、美しいと思えるあなたのこころが美しい。・・・(相田みつを)




ユウキちゃん、


そう思うのは勝手だけど、使うなら自分で買ってね?