「なっちゃん、今日は何か池袋に用事でもあったの?」
緊縛の友、M女のユウキちゃんと池袋の中華食堂でご飯を食べた先日のこと。
「ん〜? ああ、そう、ちょっと東急ハンズで買いたいものがあってね・・。」
あさり出汁の中華麺に小龍包、豚バラの葱塩煮込み、餃子をつつきながら、
ユウキちゃんとマエダのひと月ぶりの、会食。
席に着くなり、「お尻が痛い」と言い出すユウキちゃん。
「お尻が痛いって・・・。ああ、そういえばユウキちゃん、先週、久しぶりに彼に会って来たんだっけ?」
「うん、そう、逢瀬の傷跡がね・・・なかなか痛むんだよ。」
「逢瀬の傷跡ねえ・・。お尻、ムチで打たれたの?」
「いや、噛まれたの。噛んだあとをさ、ムチで打たれたから、結構キツくってさ。」
「ええ!? それはちょっとキツくないかい?大丈夫なの?」
「うん、痛いけど、大丈夫。
てゆーか、痛いのが嬉しいから。
彼に『なにして欲しい?』って訊かれたから、『残る傷が欲しい』って頼んだの。
傷が残ってるとさ、それを見れば、またその時のことを思い出して、その記憶に浸れて、嬉しいでしょ。」
・・・
そうかあ。
このM女のユウキちゃんとその彼は、
遠距離ということもあってそんなに頻繁には会えないんですよね。
だから、一回の逢瀬が永遠に匹敵するくらい大切なのではないかと、マエダは推測するわけです。
なんだか不覚にもユウキちゃんの健気さにじーんと来てしまいました。
「いやー。そんないい話のあとでアレだけどさ。」
「ああ、なっちゃんは東急ハンズで何を買ってたの?」
はい、
実はですね、
私はこの日、東急ハンズで「ソーセージ作りキット」を購入したんですよ。
私、数年前から「ソーセージ作り」が趣味なんですが、
それを友人に言ったところ、「ええ!?ソーセージ!?私も作ってみたい!」と言われたので、
新たに道具を新調して、今度友人たちで集まって作ることになったんです。
「いやー、実はさ、今まで私が持ってたのは「フランクフルト用」の道具だったからさ、
初めて作るんならちょっと細めの中太ソーセージくらいがやりやすいかなと思って、
新たに道具を買いにきたんだよ。」
ソーセージを作るのって、結構、力仕事なんですよ。
油が溶けないように低温に維持した固めの肉を、練ったり絞ったりするわけですから。
フランクフルトの太さより、ちょっと細めの方がやりやすいのではないかと、
そう思ったんですね。
とりあえず、先程購入した中太ソーセージ用の搾り器をテーブルの上に出してみました。
このソーセージ絞り器、形的にはホイップクリームを絞るヤツと同じような感じです。
ただ、肉用なので、素材は布だし、絞り口の金具もかなり大振りではありますが。
「へえ〜〜〜。てゆうかさ・・・私、なっちゃんとはもうかれこれ十年ちょっとの付き合いだけど。」
「うん?」
「なっちゃんが、ソーセージ作りが趣味って、初めて知ったよ。」
「ええ?そうだっけ?」
「うん、学生時代に『肉まん作り』がなっちゃんの趣味だったのは知ってるけど。」
「ああ〜〜、うん。肉まんも作る。
だけどさ、今は餃子も皮から作るし、中華麺も打てるし、ジャージャー麺とか麺から作ったりできるよ。
ここ半年はパン作りも熱心にやってたけどね。」
ちょっと、呆れ顔のユウキちゃん。
「あのさ、もっと 普通の料理、やんなよ。」
「うん、そうなんだけどね・・・。」
うん、そうなんですけどね。
なんか、私の場合、「美味しいっ!!」って褒められるよりも、
「すごいっ!!」ってびっくりされたい、という欲求の方が強くて、
どうしてもそういう男の料理系にいっちゃうんですよ・・・。
私が手にしているソーセージ絞り器をしげしげ眺めながら、ユウキちゃんが一言。
「あのさ、なっちゃんがそのソーセージ絞り器を持ってるとこ、写真に撮っていい?」
「へえ? 別にいいけど・・・。」
「なんか、ソーセージ作りってのが・・・イヤラシいんだよね・・。」
「ハハハ! まあ、確かに肉詰めされた豚の腸を手に持つと、なかなか猥褻ではあるけどね!」
「いや、そうじゃなくてさ・・・。」
なぜか、妙に感慨深げに、そしてかすかに嬉しそうな、ユウキちゃん。
「あのさ、そのソーセージ絞り器を持ってる様が、「お浣腸」っぽく見えるんだよね・・。」
・・・
・・・ああ〜〜〜
なんか私、まだまだ修行が足りませんわ。
そこに存在するただひとつの物体を、
どのように心に投影するかはその人の感受性次第ってことで、
言わずもがな、その感受性が豊かであればあるほど、人はより多くの美しい物と出会えるわけですよね。
ソーセージ作りには対して興味が無いユウキちゃん、
なのに、ソーセージ絞り器を見て、楽しそうな、ユウキちゃん。
・・・美しいものを、美しいと思えるあなたのこころが美しい。・・・(相田みつを)
ユウキちゃん、
そう思うのは勝手だけど、使うなら自分で買ってね?