2016/01/02


久しぶりに酷い夢を見た。

思いつく限りで最悪の夢だった。


深夜、動揺で呼吸が浅くなったせいか、頭に血が昇り軽い吐き気を感じて目が覚めた。



「奇形の性器を持った人たちが、でてくる夢だったんだよ。」

数日後、会った友人のナオミさんにその夢の話をした。

「性器が奇形って言ってもさ、両性具有とかそんな魅惑的な奴じゃないんだよ。本来あるべきじゃない身体の部分に男の性器が生えてたり、その性器が中の内臓と連動してその内臓と一緒に脈打って動いてたりするんだ。女の性器がこう開かれた中には膣口の代わりに眼球がそこにあって、その眼はちゃんと神経も通っててこちらを見据えていたりしてね。でね、一番印象的だった場面なんだけど、真っ暗な暗闇の中で、胸部にナマコみたいなできそこないの男性器が生えてる男が出てきてね、その男が、その胸部の性器を手で擦りながらオナニーしてるわけ。もちろん、こっそり隠れるようにやってんだよ。自分の性器が奇形で醜いから、それを隠すように暗闇の中でね。で、オナニーしてるってことはさ、もちろん興奮しているわけでしょ。興奮して、血圧が上がって、筋組織に血液が流れ込んで、身体が活性化してくるでしょ。でね、その男は性器が胸部にあって形も変で奇形ではあるんだけど、なんていうか身体そのものができそこないで、皮膚や血管とかの身体の組織自体がすごくもろくて、そのオナニーの興奮に身体がついていかないわけ。興奮して、身体が活性化すればするほど、身体の組織がそれに耐えきれなくて、皮膚のあちこちが裂けて血液が噴出して、身体が血だらけになっていくんだ。もちろんその男は失血して死にたくないからオナニーをやめようとするんだけど、その性的な興奮を抑えることができなくて、やめられなくて、身体のあちこちの皮膚がぱっくり割れて今にもその身体自体が脊柱から砕けて肉片になってしまいそうになりながらも血だらけのままオナニーしてて、私はそれを目の前でずっと見てた。もちろん夢の話だからさ、支離滅裂だしツジツマも理屈もないめちゃくちゃな内容だから、私がこうやって話してどれだけその時の私が感じた衝撃が伝わるんだろうって気もしなくはないんだけど。ただ、ホントにその夢が衝撃的でさ、気持ち悪さ的には、顔の毛穴全てから芋虫が出てくる夢を見たときに匹敵するくらいのもんだったね。」


国分寺の北口のスターバックスで、ナオミさんにそんな話を聞いてもらった。
贔屓にしていたドトールが数年前に閉店してしまってから、結局国分寺ではここを愛用するようになってしまった。


「・・・へ~~! なんだろ!すごいな!夢は、確実に潜在意識だと思うんだけど、私は夢判断的なセラピーは面白くないからやらないことにしてるんだ。でも、おもしろいね、その夢の話。」

「うん、そうだよね。夢って確かに潜在意識なんだけど、出てきた人とかストーリーって、大体の場合特に意味はないんだよね。私はそれより、その夢の中の自分が感じている感情の方がおもしろいよ。理性は嘘つきだけどね、感情は正直だから夢の中でもいつもそのまま露出してくるでしょう。そういう意味では夢ってすごくダイレクトだよね。直視したくなくて無意識に隠していた感情が夢に出てくるって、私の場合はよくあるよ。」


夢の話をこの友人のナオミさんにしたのは、ナオミさんがメンタルとフィジカルを扱う療法士であることと関係があった。私はこれより二か月ほど前から原因不明の精神的な疲労感と虚脱感から抜けられず、なんというか少しだけ気持ちが参っていたんだ。


「その奇形の性器を持った男はさ、本当は自分のそんな醜い性器を見るのも嫌で、できることならだれの目にも触れることなく隠しておきたかったんだけど、ほら、ふつーに性欲が湧いて興奮してくると、そんなナマコみたいなできそこないの器官でも大きくなって立ちあがってくるわけよ。で、大きくなると隠しておけないでしょ、それで動揺して隠そうとして慌てるわけなんだけど、結局、その欲求に逆らえずにオナニーをし始めるわけ。で、最終的には身体が血だらけになってもオナニーがやめられなくなるわけなんだけど。・・・・なんていうか、すごくグロテスクで滑稽で、それで切ない夢だったんだよ。奇形の性器っていうすごくグロテスクな自分が見たくもないものを直視しながら、自分の命の危機すらも足蹴にして性欲に支配されてる人間っていうのが、なんかすごく哀しいっていうか・・・なんか、そんな感じの夢だったんだよ。」

「その男っていうか、それもマエダさん自身なんだろうけどね。夢に出てくるのは、みんなその人自身だから。」

「そうだね。当たり前のことだけどそれは本当にそうなんだよ。私は、人が欲望を持つ、なんて言い方は嘘だと思ってるから。欲望は人に所有されたりなんかしないよ。欲望は常に人の上に在って人を支配してるもんだと思ってるし、その欲望はある意味では自分ひとりの命なんかよりも強くて重いもんだと思ってるし、だって、特に性欲なんていうのは種の保存のための欲求でしょう。個の欲求っていうより、種の欲求なわけでしょ。自分一人の命なんか、性欲の前では屁みたいなもんなんだよ。そういう意味では、死ぬまで欲を果たし続ける今回の夢も、何も不思議なことはないんだよね。ただ、いままで私が漠然と思っていたことが、あまりにグロテスクで具体的な形で表れてきただけのことで。」


夢の中だというのにその男は、やけに生々しい皮膚をしていた。
皮膚の湿度は人間のそれというより、まるで海の生物のような硬質で原始的な生生しさがあった。

夢の中だというのに、かすかな潮の香りのようなものも感じた。

その男はそんな海の生々しさの象徴のような自分の性器を嫌っていたのかもしれなかったが、その一部を持つ肉体自体を生かす力と、生かされている理由も知っていた。

自分の命を超える優先事項。

顔は見えなかったが、男は泣いているような感じがした。
自分の身体の醜さと、自分の肉体すら自分でコントロールできないことを哀しみながら、それでもなお身体を突き動かす興奮に身を委ねることの快感に、浸っているようにも見えた。

興奮で軋んだ身体から流れたその血液は、その男の肉体から流れてまた海に戻るのかもしれないと思った。

自ら自分の命を無下にするのはひどく哀しいが、
それは自分の上に君臨する大きな力に身を委ねることと同じと思えば、ある意味、甘美とも言えなくはない。


ナオミさんと話しながら、ふと思った。
ああそうか、だから、
哀しい、じゃなくて、切ない、んだな。


身を切られるような悲哀の隙間に、垣間見えるかすかな甘美。
滑稽とグロテスク。


身体じゅうから失血した男は、欲望のままにそのまま死んでしまったんだろうかと考えた。
それとも強い欲求に身体がついていかず、欲望を果たせぬまま血だらけの醜い身体を抱えて惨めに泣いている結末もアリかもしれない。
死ねば滑稽で、生きていれば惨めだ。

だけどまあそれはどちらでもかまわない。

どちらにしても、そんな哀しく惨めな夢の中のその男を、私は愛おしいと思った。


***


「結局、人間として生きていて、どれだけのことを自分で決めることができてるんだろうって思うんだ。だって、私は自分の身体すら、自分でコントロールできてるわけじゃないでしょう。身体は、私の意志とは関係なく勝手に生まれて、勝手に生きて、勝手に死ぬ。その間は幸運にも恒常性をもって動いて、勝手に病気になって、運が良ければ勝手に治る。その中で私ができることといえば、せいぜい余分なストレスで自分を病気にしないことくらい。自分の身体は、いったいどんな大きな力によって生きさせられているんだろうって思う。それは別にさ、自分を生かしてくれてる周りの人々に感謝しましょう、みたいなそんなありがたい話じゃなくてさ、なんてゆーか、自分は別に自分が生まれたいだけの理由で生まれてきたわけでもないし、自分が生きたいだけの理由で生かされてるわけでもないってことでね。自分の肉体が生まれてきた目的や理由は、ある意味ではきっと私個人のそれとはまったく関係がないんだろうね。」

自分の個の身体としての、したいしたくないの意志はお構いなしに、きっとそれ以上の欲望としての大きなエネルギーというものがあるんだろう。
それがたとえ美しく優しい光のようなものではなく、すべての光と色を内包するグロテスクな海底の暗闇であったとしても。



「まあ、たしかに、特にセックスの問題って、大きいからね。人間のおおもとの部分だから。私のところに来る患者さんでも、結局、最終的な問題はそこだろうって人、多いよ。精神的にも、肉体的にもね、セックスの問題が、病気として現れる人って多いんだよ。このあいだもさ、こーんなふうに、身体がこわばって動かなくなっちゃってるような人が「先生、どうしたらいいですか」ってきたけどさ、なんつーかそれはもうあなた、「セックスすればなおりますよ!」て言ってあげたいくらいだったけどね。まあ、言えないけどね。」

「・・・ああ。わかるわ。あ、だけど、女の人の場合は、セックスすれば、っていうか、したい相手としたいときに良いセックスすれば、ってことだよね。逆の意味で、セックスしてることが原因で病気として症状が出る人もいるだろうね。まあどちらにしても、身体や精神の問題がそこに行きつくことっていうのは、少なくないんじゃないかと思うわ。」

「うん、そうだね。」

「でもなんか、不思議なんだけど、あの夢見てから私、ちょっと元気になってきたんだよ。変な話かもしれないんだけど、最近調子悪くなってから性欲も枯渇してる感じがしてね、調子悪いから枯渇してんのかと思ってたけど、むしろ枯渇してたから調子悪かったのかな、なんて思ったりもしてさ。なんか、あの夢見てから、ちょっとお腹のあたりに力が湧いてきているような感じはするよ。笑」

「あはは!そうなんだ、まあ、どっちが原因かなんてどうでもいいことだよね。まあ、夢のことはさ、意味がどうこうっていうより単に、自分にとっての性欲がそういうものだってことを、思い出したっていう、単にそういうことでいいんじゃないのかな。」

うん、ホントにそうだねえ。

自分が、死を目前にオナニーできるかどうかはわかんないけどね、
だからあくまで観念的なもんではあるんだけどね。



っていうか、新年早々、毒々しい話でごめんなさいねって感じですが
今年も私らしくいろいろがんばりたいと思います。


よかったら今年もなかよくしてくださいね。

2016年もどうぞよろしくおねがいいたします。



*謹賀新年*